第324話:予想外の数々
従来の魔法競技会であれば、パーティ部門の決勝戦が終わったその日の夜に学園の代表者たちが登城し、労をねぎらうためのちょっとしたパーティーが行われる。
しかし、今年に関しては間者が忍び込んでいたという事もありパーティーは中止となり、さらに表彰式もとても簡易的なものになってしまった。
「申し訳ないな、アル君」
「いえ、とんでもありません。殿下に讃えてもらえるのですから、とても名誉な事ですよ」
「アル君、その言い方は……」
「この場は公の場ですからね。さすがに愛称で呼ぶのは……」
「……はぁ。仕方ないか」
何故か残念そうに口にしたランドルフに苦笑を返し、アルは目の前を辞して後ろに下がる。
その後にフレイア以下のメンバーが声を掛けてもらい、表彰式は終了となった。
表彰式も従来であれば優勝者や学園で陛下から直接言葉を賜り、準優勝の生徒や学園には殿下から言葉を賜るのだ。
それが優勝者と学園のみ、それも殿下からという事であれば簡易的になっていると言わざるを得ないだろう。
だが、間者が紛れ込んでいたとなれば殿下がこの場にいる事も驚きで、本来であれば王族が足を運ぶ事はないはずだった。
だが、個人部門でもパーティ部門でもユージュラッド魔法学園が優勝したという事で、ランドルフが無理を言って参加していたのだ。
「では、表彰式は以上とする!」
ランドルフの言葉を受けてアルたちが退出しようとしたところで――
「あぁ、アル・ノワールだけは残ってくれるかな?」
「……わ、分かりました、殿下」
突然の呼び止めに驚いたものの、ここで断るわけにはいかずに頷いた。
リリーナたちは心配そうにアルを見ていたが、笑みを浮かべながら一つ頷くとそのまま退出した。
「他の者も下がってくれ。この者と話があるのだ」
「で、殿下! それはさすがに危険でございます!」
「アル・ノワールまでもが間者だと言いたいのか? 彼は、ノワール家の者なのだが?」
「彼を疑っているわけではありません! 護衛もつけずに二人きりになると言うのがダメだと言っているのです!」
「ならば、私が残りましょう」
そう口にして前に出てきたのは、グレンだった。
「魔法師隊筆頭の私が殿下の護衛を務める。これならば問題はないだろう?」
「……は、はい。それであれば」
何やら不穏な空気が流れたように感じたアルだったが、ここで口を挟むわけにもいかないので黙って成り行きを見守っていた。
だが、グレンの登場により身を引いたのか、声をあげた男性は悔しそうな表情を浮かべながら退出していった。
扉が閉められ、部屋にはアルとランドルフ、そしてグレンの三人だけとなった。
「……よかったのですか、殿下?」
「……」
「……殿下?」
「……」
「…………はぁ。ランディ様?」
「構わん!」
我儘だなと内心で思いつつ、グレンもいる場でこれは無礼にあたるのではと心配していたが、グレンは笑みを浮かべるだけで呼び方へ言及する事はしなかった。
「それで、ランディ様。お話とは?」
「あぁ。……ラグナリオン魔法学園の者たちについてだ」
「……それ、俺に話してもいい内容ですか?」
間者に関する情報をただの学生に伝えても良いのかと疑問に思ったのだが、ランドルフにも思惑がある。
「問題ない。むしろ、協力して欲しいと思っているくらいだ」
「協力ですか?」
予想外の答えにさらに疑問が深まっていく。
「カーザリアの周辺で強力な魔獣がうろついていると聞いた事はないか?」
「冒険者ギルドのギルマスから聞いています」
「リルレイか。……ちっ、すでに接触していたか」
「え? 何か言いましたか?」
「ん? あー、いや、なんでもないさ」
何やら舌打ちのようなものが聞こえた気もしたが、ランドルフは話を進め始めた。
「その魔獣の発生に、先の学園の生徒が関わっていたようなんだ」
「シンたちが? ……魔獣が進化したとか、ですか?」
「方法までは分かっていない。ただ、言われた通りに事を成しただけらしい」
シンたちを捕らえてから一日も経っていない。それにもかかわらず情報を引き出したというのはさすが王都の魔法師隊というところか。
「そして、その魔獣はいまだに討伐できていない」
「……ギルマスには討伐できなければ協力すると言っちゃいましたねぇ」
「…………ちっ!」
「すみません、ランディ様。今のはさすがに無視できないですよ」
「感情を表に出し過ぎですよ、殿下」
「だ、だがなぁ、グレン殿。後出しではリルレイに文句を言われるではないか」
何やら問題があるのかと首を傾げるアルだったが、ランドルフの表情を見ると面倒があるようだと察する事はできた。
「……えっと、俺のやるべき事は、魔獣の討伐に協力する、それだけでいいんですよね?」
「それはそうなんだが……うーん、どうするべきかぁ……」
「そういう事だ、アル・ノワール。ギルドマスターと話をしているのであれば、そちらに顔を出して欲しい。こちらからも連絡を入れておこう」
「わ、分かりました」
「ちょっと、グレン殿!」
「で、では、失礼します!」
「おぉい! 待ってくれ、アル君! アルくぅぅぅぅん!」
面倒事はこりごりだと思いながら、アルはグレンに促されたのでさっさと退出したのだった。
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