第322話:パーティ部門・決勝戦⑪

 まるで魔獣のようなその獣はシンの左肩に噛み付く。

 シンは苦悶の表情を浮かべながらデスポイドを右手で振り抜き漆黒の獣を切り裂く。

 だが、直後には足元に転がっていたジャミールの姿が消えていた。


 ――キンッ!


「貴様、意識を取り戻していたのか!」

「そもそも、気絶なんてしてなかったからね~」

「一対一の邪魔をする――ぬおっ!」


 鋭く振り抜かれたグラムの一撃を防いだシンだったが、直後に感じた殺気へ敏感に反応して打ち払うと振り返りながらデスポイドを前に出す。

 そこへ吸い寄せられたかのようにアルディソードが突き出され互いに弾き返された。


「ア、アル!」

「これは一対一の決闘ではなく、勝つか負けるかの試合だ!」

「まだそんな事を言っているのか!」

「お前の言っている事には矛盾が多過ぎる! 殺し合いだとしたなら、なおさら一対一にこだわる必要など俺たちにはない!」

「くっ!」

「そういう事~! それに君、まだ何かを隠してるよね~?」

「な、何を根拠にそのような戯言を!」


 常に冷静さを保っていたシンだが、ここに至り始めて苛立ちを露わにした。

 剣の鋭さは相変わらずだが、剣閃から伝わる殺気に乱れが生じている。

 そして、その事に気づかないアルとジャミールではない。

 鋭くとも剣筋が分かれば受ける事も躱す事も可能だが、デスポイドには魔力を吸い取る効果が備わっているので回避を選択する事が多くなる――とシンは考えていた。


「あなたは、魔力を失うのが怖くないのですか!」

「僕の魔力が無くなっても、アル君がいるからね~! ガンガン打ち合ってあげるよ~!」


 シンの思惑とは対照的にジャミールは迷う事なく剣と剣を打ち合わせて動きを制限する。

 その隙を縫うようにアルが死角を突いて攻撃を加えていく。

 漆黒の獣に食われた左肩に力が入らない状態で、さらに左右の足にも傷を増やしていき機動力が削れてしまう。

 苦しい表情を浮かべながら耐えているが、その動きには明らかな陰りが見え始めておりさらに傷が増えてきた。


「一気に決めるぞ!」

「任せるよ、アルく――ぐっ!?」

「ジャミール!」

「……甘く、見るなよ!」


 明らかに優勢だった状況で、突如ジャミールが苦悶の声を漏らして膝を付く。

 振り下ろされるデスポイドだったが、アルが間に入りアルディソードで弾き返すとジャミールの腕を取って後方へ下がる。だが――


「せんぱ――」

「アル君!」


 何が起きたのかを確認しようとしたアルだったが、助け出したジャミールが焦った様子で何かから庇おうとして体を前に出す。

 すると、何かに弾かれたように体がぐらりと歪みアルの方へ倒れ込んできた。


「ジャ、ジャミール先輩!」

「あー……ごめん、アル君。……これ以上は、無理かな~」

「これは……投げナイフ?」


 決勝戦が始まりずっとシンと対峙していたアルだから分かるが、投げナイフを隠し持っているようには見えなかった。

 それも一本ではなく、ジャミールの体には三本ものナイフが突き刺さっていた。


「彼……金属性持ちだと、思う」

「なるほど――作り出しましたか」


 鋭い視線をジャミールに向けると、単にナイフを作り出しただけではなかった。

 デスポイドを握る立ち姿は今までと変わらないが、その周囲には作り出したナイフ五本がシンの周囲を飛び回っていた。


「……後は休んでおいてください」

「……気を付けるんだよ? 話は聞いていたからね」

「ありがとうございます」


 ゆっくりとジャミールの体を舞台に寝かせると、アルはアルディソードをグッと握って前に出る。

 鋭く真っすぐに飛んできたナイフを切り裂き落とすと、さらに二本目、三本目と飛んでくるが同様に打ち落とす。

 しかし、シンのナイフは切り裂かれるのと同時に新たなナイフが作り出されて宙を舞う。


「疾風飛斬」

「飛ぶ斬撃だね!」


 間合いの外から攻撃を仕掛けたアルだが、すでに研究されている疾風飛斬にはナイフを殺到させて勢いを殺し対処する。


「烈風」

「それも予測済みだよ」


 さらに周囲に纏わされていたシルフブレイドをデスポイドが両断して魔力を消失される。


「瞬歩――針点」

「うおっ!」


 それでもアルの動きが止まる事はない。

 瞬歩で間合いに足を踏み入れた途端、全身のばねを使って放たれた高速の突きである針点がシンを穿とうと迫る。

 瞬きもできないと目を見開いて間一髪で防いだシンだったが、疾風飛斬と同様に針点にも魔法が纏わされていた。


逆氷柱さかつらら

「地面から!」


 地面から突き出された氷柱に貫かれる事を警戒して大きく飛び退いたシンだったが、それこそがアルの狙いだった。


「次の一振りで決めるぞ」

「なら、俺も全てを込めてアルを斬ろう!」

「マリノワーナ流剣術――紫電一閃しでんいっせん

「サウザンドソード!」


 アルの全てを込めた一振りである紫電一閃。

 隠し持っていた全ての金属を自らの支配下に置いて全方向から攻撃を仕掛けるシンのサウザンドソード。

 お互いに全力を込めた最後の攻防は、一瞬で幕を閉じる事となる。

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