第321話:パーティ部門・決勝戦⑩
多くの者が倒れた。
残されたのはすでに魔法を放つ事のできないリリーナと、相対しているアルとミラージュにより七人に分裂しているシンである。
全てに実体があり、アルは全てのシンに対して意識を向けている。
「シルフブレイド!」
常に七人と戦う事はいくらアルでも精神の消耗が激しくなる。まずは数を減らす事を意識して風の刃を限界まで顕現させると、三人のシンへと殺到させた。
「「「「構わないよ」」」」
シンも狙われた三人を見捨てて残る四人でアルの首を狙う。
シルフブレイドが三人のシンを消滅させるのと、四人のシンがアルの左腕を切り裂いたのはほぼ同時であった。
「ぐあっ!」
「「「「ふふふ。痛いだろう? でも、これは試合後も治らないからね?」」」」
「……痛いが、これくらいならどうという事もない!」
「「「「くっ! まだそれほどに――うあっ!?」」」」
同年代の学生という立場の者であれば、傷を負い痛みがあれば多少なり動きが鈍るものだろう。それをシンも期待していた。
だが、アルは普段と変わらずに両手でアルディソードを握り、鋭い一振りで四人目のシンを切り裂いた。
「「「アル、あなたという人は!」」」
「この程度で驚かれても困るんだがな――ファイアボルト!」
至近距離から放たれた最速の一撃は、さらにもう一人のシンを貫き消滅させる。
残りが二人となった時、シンはミラージュの発動を解除してその身を晒した。
「どうした? 諦めたのか?」
「まさか。でも……うん、そうだな。やっぱり、君は殺しておくべきだと判断したよ」
「最初からそのつもりなんだろう?」
「もちろんさ。でもね――確実な方法でと思ったんだ」
「確実な方法だと? ……貴様、させるか!」
「もう遅いよ」
シンの選択した確実な方法、それは――倒れているユージュラッド魔法学園の生徒を人質にする事だった。
デスポイドの刃が一番近くで倒れていたジャミールの首筋に当てられる。
シンの行動により会場からはざわめきが広がっていく。
倒れている相手に剣を向けても意味がなく、仮に致命傷を与えたとしても自動治癒により回復する。そのはずなのだ。
だが、シンの言葉が本当ならばデスポイドで首を落とされれば治癒される事なくそのまま命を落とすことになる。
ここでアルが虚言だと決めつけてシンを攻撃する事は簡単だが、もし本当であれば自身の行動でジャミールを殺した事になってしまう。
「……くそっ!」
現状、アルが取れる選択肢は動かないという一択しか存在しなかった。
「利口だね」
「黙れ! ……一つだけ教えてくれ。お前が口にしている革命ってのは何なんだ?」
「時間稼ぎのつもりかい?」
「違う。このままだとどうせ殺されるんだ。なら、疑問を残したまま死にたくはないからな」
「……まあいいよ、教えてあげる」
デスポイドは今なおジャミールに向けられているが、シンはニヤリと笑い答えを口にした。
「俺たちは魔法国家カーザリアを攻め滅ぼすために調査をしに来た、他国の間者さ」
「やはりそうか」
「なんだ、気づいていたのかい?」
「何となくな。というか、そんな剣を用意している時点でおかしな話だからな。陛下を狙ってか、もしくは別の目的があるだろうとは思っていた。……だが、おかしな点もある」
「なんだい?」
「どうしてこうも目立つ事をしている? お前の腕なら秘密裏に有力者を殺す事もできたんじゃないか?」
疑問は尽きない。
他国の間者であればバレないようにするのが普通である。だがシンはわざわざ魔法競技会という人の目が集まる大会に参加し、そして王族の目まであるところで倒れているジャミールに剣を向けている。
これではまるで自分を疑ってくださいと言っているようなものだ。
「どうだろうね。俺は使い捨ての駒みたいなものだから、俺にできる最善で有力な敵国の駒を減らすよう考えただけさ」
「それが魔法競技会だったとでも?」
「その通り。勝ち上がって来た者は将来有望な人間って事になるだろう? 個人部門での出場も考えたけど、パーティ部門なら複数の人間を殺す事ができるからね」
「……矛盾が過ぎるぞ」
「それはアルが決める事じゃないよ。話はこれでおしまいかな? そうそう――そこの女も動くんじゃないぞ?」
隠す必要がないと判断したのか、シンは密かに魔法を構築しようとしていたリリーナに向けて強烈な殺気を放つ。
「――!?」
「うん、いい子だ。君もアルの後に殺してあげるから、そのつもりでね」
「……もういいだろう」
「そうだね。もういい――」
「サモン」
『グルアアアアッ!』
「なに!?」
突如として漆黒の獣が顕現するとシンへと襲い掛かった。
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