第320話:パーティ部門・決勝戦⑨

 現状、ユージュラッド魔法学園からの脱落者はラーミア、ジャミール、フレイア。

 ラグナリオン魔法学園からはフォン、ミラ、ルカ、アスカ。

 しかし、ユージュラッド魔法学園のリリーナはレベル4の魔法を放ったことで魔力枯渇に近く、すでに立っているのがやっとの状態だ。

 そして、ラグナリオン魔法学園のルグがジャミールが倒れてから時間が経ち闇魔法の効果が消えて戦線に復帰した。


「……あん? なんだ、黒髪の奴、倒れてるじゃねえ――」

「――ルグウウウウゥゥッ!!」


 直後に響いてきたアスカの声に顔を上げると、ルカとアスカが脱落した瞬間だった。

 瞬時に状況を把握したルグは、生き残っているシエラとリリーナを標的とする。


「まずはてめぇからだ!」

「やらせないわ!」


 今にも倒れそうなリリーナに突っ込んでいこうとしたルグだったが、素早く間に入ったのはシエラである。

 二刀のナイフで受け止めたものの、膂力の差は歴然であり大きく後方へ吹き飛ばされてしまう。


「あなた、どうして生きているのかしら?」

「はん! 闇魔法で封じ込めていたつもりだろうが、人でも魔法でも近づけば斬る、それは俺が最も得意とする事だからな!」

「……要は、飛んできた魔法もジャミールの攻撃も弾き返してたから生きていた、そういう事かしら?」

「知らねぇなあっ! 何せ、見えてなかったからよ!」


 呆れた物言いだが、ルグの言っている事に間違いはなかった。

 闇魔法によって五感を狂わされていたルグだったが、シンを除けば剣術に一番長けているのが彼である。

 自らの間合いに入って来た気配に対してだけは、五感を狂わされていたとしても素早く反応し大剣を振るっていた。

 それがジャミールの剣であっても、イフリートの炎であってもだ。

 実際にルグは気づいていないが、大剣がイフリートの炎を両断した時には観客が大いに沸いたものだ。


「全く。とっても厄介な相手を残してくれたものね、ジャミールは」

「俺は嬉しいぜ! シンの相手以外にしか手を出せないからな! てめぇも面白そうだしな!」

「相手をしてあげる。掛かってらっしゃい、猛獣さん」

「言ってくれるじゃねえか! 行くぜ!」


 大剣を上段に構えたルグ。

 受ける姿勢で一挙手一投足に注目するシエラ。

 間合いは大剣のルグに軍配が上がるため、シエラはカウンターを狙って一撃で仕留める構えを見せている。


「……!?」

「遅いぜぇ!」


 踏み込む様子が何一つなかった。それにもかかわらずルグは一瞬のうちに大剣の間合いに移動して振り下ろしてきた。

 一瞬の事にシエラは二刀で受け流しきれず左肩を痛めてしまう。

 大きく後退するものの、すぐそこにはリリーナもおりこれ以上は下がる事ができない。


(地面が削れているという事は魔法で加速した? 心の属性は土属性と仮定して本体だけではなく地面にも注目しなければならないわね)


 思考を止めることなく状況を把握したうえで、シエラは変わらない戦略でルグを迎え撃つ。

 代り映えしないシエラの対応にルグはがっかりしたものの、ここでの勝利がシンに優位に働く事も理解しているので手を抜く事はしない。

 自らの優位を疑うことなく、再び大剣を構えて土属性魔法を放つ。


「――ここ!」

「うおっ!」


 舞台が自動的に前へ移動しルグの体を運んでいく。

 その瞬間を見逃さずにシエラはフラッシュを放ちルグの視界を奪う。

 魔法効果が消えて棒立ちになったところへナイフを振り抜いたのだが――


 ――ガキンッ!


 気配を察知したのだろう。

 突っ込んできたシエラに対して大剣が横薙ぎされて吹っ飛ばされる。

 だが、今回はシエラもこれで止まらない。

 着地と同時にシューティングスターを複数放ち数と速度で勝負に出る。魔法で機動力を補っている点から勝負になると判断したのだ。

 しかし、ルグは致命傷になり得る攻撃を大剣で巧みに防ぎ、それ以外はその身で受け止めて前に出てきた。


「この、戦闘狂め!」

「俺にとっちゃあ褒め言葉だなあ! どっせええええいっ!」

「くあぁっ!!」


 左手に力が入らずナイフが飛んでいく。さらに痛めていた左肩にも負荷が掛かりだらりと下げる。

 右手にはアルから借り受けている斬鉄を強く握りしめてルグを睨む。


「これで、終わりだあ――あぁん!?」

「……ナイス、リリーナ」

「……後は……お任せ、しま……」


 残り少ない魔力の全てを使い強固に作られたウッドロープが一本、ルグの右腕に巻き付いている。

 たかが一本だが、それが一瞬の隙を窺い攻め合う戦いの場においては致命的になる。

 地面を蹴りつけて前進したシエラを見て、ルグは舌打ちをしながら左手だけで大剣を横薙ぐ。

 しゃがんで大剣を潜り抜けるが、斬鉄の間合いからは離れてしまう。

 だが、シエラは構うことなく前進して逆手に持った斬鉄を振り抜いた。


「その距離で当たるわけが――あん?」

「……アルの真似事は……きつい、わね……」


 大きく息を吐き出したシエラは膝を付く。

 それと同時にルグは意識を失い倒れていた。

 斬鉄に魔力を通し、魔力の刃を伸ばしてルグの首を刈り取っていたのだ。


「……勝ったわよ……アル……リリーナ……」


 満身創痍のシエラもその場に倒れ、残されたのはアルとシンの二人だけになった。

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