第318話:パーティ部門・決勝戦⑦

 目の前の相手に集中しているジャミールだったが、イフリートの炎が殺到し爆発を起こした事で小さく唇を噛む。

 普段はおっとりした性格のジャミールだが、俯瞰で戦場を把握しており誰が倒されたのかを理解すると悔しさを滲ませる。何故なら自分を助けてくれたラーミアがやられたからだ。


「ははははっ! これで俺たちが有利だな!」

「棍使いもダメージがあるようだけど?」

「あいつがあれくらいでやられるはずがねえからな! もうすぐお前も倒されるぜ!」

「……気に入らないなぁ」


 笑いながら仲間の敗北を口にするルグに苛立ちを隠すことなく、ジャミールはグラムを握る手に力がこもる。

 そして、大きく後退しながら闇魔法を放つ。


「ダークフィールド」

「その魔法の対処法は分かってるぜえっ!」


 一定範囲を暗闇にするダークフィールドから逃れるためにジャミールを追って前進する。


「ウッドロープ」

「アースバイト!」


 地面を這うようにして迫ってくるウッドロープを喰らいながらアースバイトが放たれる。


「ヘビーフォール」

「アースウェーブ!」


 どちらも地面をぬかるませるという点では似たような魔法をぶつけて相殺する。


「どうしたよ! 足止めの魔法ばかりでつまらねえじゃねえか!」


 ダークフィールドの範囲を逃れたルグが大剣を握りしめて振り抜いたが、そこにジャミールの姿はなかった。


「……あん? どこに行きやがった!」

(――どこだろうねぇ?)

「これは……ちっ! これも闇魔法か!」


 視界の映像が歪んでいき、まるで球体の中に閉じ込められたかのような錯覚に囚われてしまう。

 さらに頭の中へ直接ジャミールの声が聞こえている事で、すでに術中に嵌まっていると舌打ちする。


「……いいぜ、受けて立ってやるよ!」

(――君は僕の仲間を侮辱した。楽に倒れられると思わない事だよ)

「楽しみだなあっ!」


 ピンチであるにもかかわらずニヤリと笑みを浮かべるルグだったが、この時はまだ分からなかった。その姿を遠くから眺めているジャミールの姿に。


 シエラとミラの戦いは熾烈を極めていた。

 魔法を撃ち合っている事も要因の一つとなっているが、互いに二振りの剣とナイフを扱い高速の打ち合いにもなっている。

 一回に聞こえる剣戟音の中に実は三回の打ち合いが存在していたりと、見ている人にとっては何が起きているのか分からないと言った状況も生まれていた。


「ファイアランス! メガフレイム!」


 ミラの巧みな部分は双剣という扱いの難しい武器を器用に振り抜きながらも魔法を同時に発動できるところだろう。

 心の属性のレベルでいえばミラの火属性がレベル3なのに対して、シエラの光属性はレベル5と差は明らかだ。

 そこを補っているのが魔力操作の卓越さだろう。


「リフレクション。……シューティングスター」

「遅いわよ!」

「そうかしら?」

「え――あぁっ!!」


 放たれる魔法をリフレクションで反射させつつ、二つの火魔法に紛れさせて速度重視のシューティングスターを放つ。

 前のめりになっていたミラは気づくのに遅れてしまい左足に着弾、苦悶の声を漏らす。


「くっ! ……や、やるじゃないのよ」

「魔力操作に自信があるようだけど、私はあなたよりも卓越した魔力操作の人物を知っているわ」

「あり得ないわ! 私以上に魔法を上手く使えるなんて、シン以外にいないんだからね!」

「……ふふ」

「な、何がおかしいのよ!」


 突然笑い出したシエラにムッとしたミラだったが、不思議と楽しそうなシエラに疑問を浮かべる。


「だって、あなたにとってのシンは、私にってのアルよ」

「……あいつが? だったら勝負はシンの勝ちね!」

「そうかしら? 私はアルが勝つと信じているわ」

「私もよ!」

「「……それなら私たちは、代理戦争ね!」」


 負傷したミラが不利であることに変わりないが、それでも負けられないと双剣を握りしめる――その時だった。


「うおおおおおおおぉぉっ!」


 イフリートの炎の直撃を受けたはずのフォンが黒煙の中から飛び出してきた。


「ナイスタイミング!」

「勝てよ、ミラ!」

「やっぱり生きていたのね」


 体中に火傷を負っているものの、フォンは自らの周囲に水の結界を張り巡らせるウォータードームを発動させて凌ぎ切っていた。

 黒炎の中で息をひそめ、一番近くで戦っていたシエラとミラの戦況を見つつタイミングを見計らっていたのだ。


「――甘いね~」

「ぐはっ!?」


 しかし、フォンの棍がシエラに届くよりも早く、ジャミールが振るうグラムがフォンの背中を切り裂いた。


「……そ、そんな。ルグは!」


 驚愕に顔を染めたミラがルグを見ると、そこでは何もない場所に大剣を振るい、魔法を放つ姿があった。


「……闇、魔法!」

「大正解」

「ありがとう、ジャミール先輩」

「どういたしまして。それじゃあ、後は任せていいかな?」

「もちろんです。……ゆっくり休んでください」


 シエラが労いの言葉を掛けると、ジャミールは苦笑しながら目を閉じた。


「こちらこそ、ありがとね~」


 ジャミールが意識を失うのと、シエラがミラを切り裂いたのは、ほぼ同時であった。

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