第317話:パーティ部門・決勝戦⑥
即座に気配察知を行ったアルだったが、不思議な事に全ての幻影にシンの気配が含まれている。
「……魔力をふんだんに分けているみたいだな」
「「「「「「「見た目だけの幻影ではすぐに見抜かれるはずだからね」」」」」」」
ジーレインと戦った時の反省を活かして目の前の七人だけではなく周囲にも気配察知を張り巡らせているが、そこにシンの気配はない。
油断はできないが、七人の中に本体がいると見て間違いはないだろうと判断した。
「だからといって本体がいないわけではないんだろう? 切って捨てるだけだ」
「「「「「「「面白い。やれるものならやってみな!」」」」」」」
流れるような剣筋でアルディソードが振り抜かれる。
しかし、アルにも予想外の事態が起きた。
――キンキンッ!
「なっ! 全てに実体があるだと?」
一人目に剣を振り抜いた直後に横薙ぎを放ち幻影を断ち切ろうとしたのだが、二人目が手に持つデスポイドにも手ごたえを感じた。
直後には三人目と四人目が左右から迫ってきたのだが、二度も手ごたえを感じた事でアルディソードで迎え撃つ。
――キンキンッ!
ここでも全ての攻撃に手ごたえを感じた事で疑問が確信へと変わり、思い描いていた戦略を大きく修正する事になった。
「ならば、全てを切り捨ててみせる!」
マリノワーナ流の全てをつぎ込み、この試合を勝利しようと柄をギュッと握りしめる。
その姿を見た七人のシンは不敵な笑みを浮かべた。
――時間を少し遡り、ジャミールを助けるために突っ込んできたラーミアとフォン。
アースアーマーを纏い防御に重点を置いているラーミアだったが、その思惑はすぐに見抜かれてしまう。
「邪魔をしないでください! 時間稼ぎなど無駄ですよ!」
「無駄かどうかはやってみないと分からないでしょうよ!」
最初の突進以降、ラーミアはアースアーマーの維持に大量の魔力を注いでいる。
硬質化も強固なものとしており、攻撃には魔力を一切使用していない。
それを即座に見抜いたフォンは逆に魔力を攻撃へ注ぎ込みアースアーマーの破壊を試みていた。
「くっ!」
「はははっ! さあさあ、崩れているぞ、さっさと引いた方がいいんじゃないですか!」
棍の先に魔力を集中させて威力を高め、鋭い突きがアースアーマーを削り取っていく。
5センチの厚さを誇っていたアースアーマーだが、今では残り3センチまで削り取られている。
そしてついに――
「つっ!?」
「はっ! ここからは僕の時間ですね! いいや、ずっと僕の時間だったかな!」
生身の右肩を捉えた棍がラーミアを後退させると、そこから鋭い突きが左肩、左右の太ももを打ち据えていく。
魔力の込められた一撃は非常に重く、一撃で骨を砕く事もある。ラーミアが耐えられたのは、薄くなったとはいえアースアーマーが僅かにでも威力を削いでくれたからだ。
しかし、そのアースアーマーもすでに崩壊してしまい、立っている事がやっとという状態。
魔力も枯渇に近く、いつ倒れても仕方がないという状態だった。
「はぁ……はぁ……ま、まだ、やれるわ!」
「強がりですね。まあ、このまま終わりにしてあげま――っ!?」
前に出ようとしたフォンだったが、二人の間に降り注いだのはイフリートの炎だった。
「ちっ!」
舌打ちをしながら一歩後退するが、即座に炎を回り込みながらラーミアへと迫る。
魔力を込めずとも棍の一撃を与えられれば倒れてしまう状態だったが、ラーミアは俯きながらも笑みを浮かべていた。
「時間稼ぎ、させてもらうわよ!」
「これで終わり――うおっ!?」
今度は炎ではない。
踏み抜いた地面がぐにゃりと歪み、右足が埋もれてしまう。
「アースウェーブ! だが、すでにお前は!」
確かに右足を捕らえられたフォンだったが、そこはすでにラーミアを間合いに捉えていた。
左足をさらに前に出し、埋もれてしまう事もいとわずに踏み抜きながら棍を突き出す。
「ウォーターランス!」
突き出された棍の先の魔力が形を変えて水の槍を作り出し、ラーミアを穿つ。
意識を失い魔法の効果が消えていく。
(……これで……いぃわ……)
最初に脱落したのはラーミアである。
だが、両足を地面に埋めていたフォンにとっては予想外の事が起きていた。
「あ、足が!」
ラーミアの魔法効果が消えるに従い、アースウェーブの効果も無くなり地面が元の硬さを取り戻した。
そこへ再び降り注ぐイフリートの炎。
「う、うおおおおおおおおぉぉっ!!」
先ほどの炎とは明らかに規模が違う、狙っていたかのようなタイミングで大量の炎がフォンに殺到した。
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