第316話:パーティ部門・決勝戦⑤
イフリートの炎はアルとシンが斬り合っている場所にも飛び火していた。
「うおっと!」
大きく飛び退いたシンだったが、アルは構うことなく前に出て追撃に出る。まるでこうなる事が分かっていたかのように。
「凄いね! まさか突っ込んでくるとは思わなかったよ!」
「仲間の魔法だからな! これは俺たちに影響など与えない!」
「ちっ! そう来たか!」
アルの言った通り、イフリートの炎は傍から見れば暴走しているように見えただろうが、フレイアによって完全にコントロールされていた。
舞台全体に炎は放たれているが、その全てがラグナリオン魔法学園のメンバーに向けて飛んでいっている。
「後衛同士の撃ち合いは勝てると思ったが、まさかこんな隠し玉を持っていたとはね!」
「ならばお前も本気を出したらいいだろう! 持っているんだろう? 隠し玉」
至近距離からファイアボルトを放つものの、シンは最速の魔法を難なく回避してデスポイドを突き出す。
アルディソードで受け流しながら前蹴りを見舞うが、紙一重で大きく飛び退き回避される。
複数のシルフブレイドを顕現させて撃ち出すが、シンはアル同様に魔法を切り裂き霧散してしまう。
「ならば俺も撃とうか――メガフレイム!」
クルルよりも、そしてフレイアよりも巨大で威力の高いメガフレイムが同時に三つ顕現させたシン。
正面と左右から一つずつ放たれると、アルは鋭くアルディソードを振り抜く。
ほぼ同時にメガフレイムを切り裂くと、それと同時に前に出てシンへと迫る。
「なっ! いないだと!?」
しかし、そこにシンの姿はなかった。その代わりに――
「うおっ!? なんだ、地面が……これはウォーターホールか!」
突如としてぬかるんだ地面に足を取られたアル。
当然ながら動きを鈍らせたところを逃すシンではない。
「死んでくれよ、アル!」
「まさか! アースドーム!」
周囲の地面がせり上がると、アルを包み込むようにしてアースドームが形成される。
しかし、シンが持つデスポイドはアースドームを容易く両断してアルの姿を露わにする――はずだった。
「……いない? いや、違う。これは――ダークフィールド!」
「遅い!」
「はあっ!」
ダークフィールドは相手だけではなく自分の視界も暗闇に覆われてしまう。
それでも剣を振るえるのはアルの経験から来る気配察知によるものだ。
だが、前世の経験を持つアルだけではなくシンも剣を振るい受けて立っていた。
暗闇の中で鳴り響く金属音は一つや二つではない。十、二十と鳴り響き、それ以上は二人とも数えることを止めていた。
いや、正しくは止めなければ一瞬で斬られると理解したのだ。
視覚以外の感覚を信じて剣を振るい、それが互いの敗北を長引かせている。
そこへ飛んできたのは――イフリートの炎。
――ドゴオオオオン!
フレイアが操作を間違えたのか。否、それは違う。
イフリートの炎はあえてフレイアが飛ばしたものだった。
「またか!」
「助かった! フレイア、リリーナ!」
フレイアに指示を飛ばしたのはリリーナだった。
実を言えば、フレイアがレッドバイトを使用した時に操れる魔法についてアルは事前に確認を取っていた。
使用する事に躊躇いを持っていたフレイアだったが、アルはしっかりと制御できる事に確信を持っていた。
何故なら、一緒に訓練をしている中でフレイアの魔法操作は誰よりも上達していたからだ。
そして、戦いが拮抗したところへイフリートの炎を飛ばして欲しいと伝えていたのだ。
「さて、振り出しだな。……いいや、シンはダメージがあるみたいだな」
「……これくらいはダメージの内に入らないよ」
アルディソードが届いた手応えはない。アルが口にしたのはイフリートの炎によるダメージの事だった。
しかし、シンは自らに光属性のキュアを発動して傷を癒してしまう。
「ほらね?」
「全く。これでは試合が決着するのに相当な時間が掛かりそうだな」
「いいや、そこまで時間は掛からないさ」
そう口にしたシンの姿が複数に増えていく。
「これは……そうか、ミラージュ」
「そう。ここからが本気の俺だからね!」
過去にジーレイン・フットザールが使っていた光魔法だが、その練度は桁違い。
ジーレインが四つの幻影を作り出したのに対して、シンは本体を含めて七つの姿を作り出していた。
「「「「「「「さあ、この中に本物がいるかな? それともいないかな?」」」」」」」
「……これまた、面倒な魔法を使ってきたな」
アルとシン、第二ラウンドが始まった。
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