第315話:パーティ部門・決勝戦④

 場面は後衛の撃ち合いに移っていく。

 リリーナとフレイア、そしてラーミアが魔法を撃ち続けている時である。


「やや優勢。だけど、崩せないわね」

「魔法の使い方が上手いようです」

「フ、フレイア! ジャミールが!」


 冷静に分析をしていたフレイアとリリーナだったが、そこに焦った様子でラーミアが声を掛ける。

 横目でジャミールを見ると、ルグとフォンから攻撃を受けており苦戦を強いられていた。


「ジャミールだから凌げているけど……時間の問題かもね」

「ですが、ジャミール先輩ですよ?」

「ど、どどどど、どうしよう!」


 リリーナはジャミールを信頼しているが、信頼だけで勝ち残る事はできない事をフレイアは知っている。

 身内贔屓など一切せず、冷静に戦況を分析して判断を下そうとしていた。


「……ラーミア、行って」

「えぇっ!? で、でも、そしたら撃ち合いはどうするんですか?」

「二人で何とかするわ」

「でも、さすがにそれは……」

「いいから行きなさい!」

「は、はいいいいぃぃっ!」


 迷っていたラーミアへ怒声を響かせると、大きな声で返事をして駆け出していく。

 その様子を見ていたリリーナは、直後にジャミールのピンチを間一髪で救ったラーミアの姿を見た。


「流石はフレイア様です!」

「ありがとね。でも、これでこっちが不利になったわ、踏ん張りなさい!」

「はい!」


 フレイアの言う通り、ラーミアが抜けた直後から後衛同士の撃ち合いは押され始めていた。

 フレイアがレベル4の火属性、リリーナがレベル2の木属性。

 対してラグナリオン魔法学園の後衛であるアスカがレベル4の土属性、ルカがレベル4の木属性。

 リリーナはレベルが低い分、魔法装具と魔力操作を駆使してレベル3の魔法を放っているものの、それでも自力で勝る二人の魔法に押されてしまっているのだ。


「くっ! 私ではまだ、レベル4は放てない、という事ですか!」


 悔しそうに歯噛みするリリーナを横目に、フレイアは意を決したかのように小さく息を吐いた。


「……ここが、私の覚悟を決める場面ね!」


 右手を腰の後ろに回すと、ベルトに差していた一本の魔法装具を取り出すフレイア。


「フレイア様、それは!」

「ちょーっと周りが見えなくなるかもだから、後は任せるわよ、リリーナ!」


 魔法装具に魔力を込めていくと、銀色だった外装が徐々に深紅に色を変えていく。


「さあて、ぶっ放すとしますか――レッドバイト!」


 フレイアの魔法装具、レッドバイトから魔力が解放された。


「火属性レベル5魔法――イフリート!」


 フレイアの頭上に深紅の魔力が放出されると、魔力の塊の中から腕組みをした巨大な魔法生物、イフリートが顕現した。


「焼き尽くしなさい!」


 そして、フレイアの号令に合わせてイフリートが両腕を前方へ突き出すと、レベル4以上の火力を有した炎が大量に放出されていく。


「な、何よこれ!?」

「アスカさん、耐えましょう! ここで私たちが落ちれば、戦況は一気に傾いてしまいます!」

「わ、分かってるわよ!」


 フレイアのイフリートだけではなく、リリーナの魔法もある。

 魔力の節約など言っていられない状況に、アスカとルカは魔力を全力で魔法装具に注ぎ込んでいく。

 こうでもしなければ抑えられない、拮抗を保つ事ができない。

 それほどに、イフリートの攻撃力は尋常ではない威力を誇っていた。だが――


「ちょっと……ちょっと、ちょっと!」

「ほ、炎が、いたるところへ!」


 二人が放つ魔法に向けてではない。イフリートの炎は舞台上を覆い尽くすように放たれていく。拮抗していた戦況を崩してしまいかねない程の威力の炎がだ。

 アルとシン、ジャミールとルグ、シエラとミラ、ラーミアとフォン。

 フレイアのイフリートが後衛同士の魔法の撃ち合いだけではなく、前衛の状況すらも変えようとしていた。

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