第313話:パーティ部門・決勝戦②
舞台上での会話は必要なかった。
それぞれが無言のまま持ち場につき、相手を見据え、精神を集中させる。
審判の合図を待ちながら、動き出すタイミングを見計らっている。
そして――
「パーティ部門、決勝戦――開始!」
シエラとジャミールが左右に駆け出すと、ほぼ同じタイミングでルグとフォンが右へ、ミラが左へと移動する。
対峙するのはジャミールがルグとフォン、シエラがミラだ。
後衛の三人と二人は威嚇で魔法を放ちながらも左右の戦況を逐一観察している状態である。
そして、アルとシンはと言えば――
「へぇ。いきなり飛び掛かってくるかと思ったけど、そうはならなかったね」
「まあな。シンの殺気がどこか薄かったから、まずは様子見になるだろうと読んだ」
「さすがは個人部門の優勝者であり、Sランク相当の魔獣を単独討伐しただけの事はあるよ」
「お褒めにあずかり光栄だな。だが、いいのか? こうして世間話をしている間にも、戦況は大きく変わっていくが?」
前衛同士がアルの読み通りに武器を取り出して打ち合い、後衛同士は魔法で牽制しながらも前衛のフォローを行っている。
左右どちらも一進一退の攻防を繰り広げており、どちらか一方が落ちれば戦況は一気に傾くことになるだろう。
「なら、俺たちも始めるとするかい?」
「いいだろう。ずっと心待ちにしていたからな」
アルディソードを抜いたアルに対して、シンは禍々しい気配を放つ漆黒の剣を抜く。
あまりの禍々しさにアルは少しだけ眉間にしわを寄せた。
「……へぇ。これのヤバさが、アルには分かるんだね」
「お前、そんなものを使って大丈夫なのか?」
「もちろん、大丈夫……じゃないよ。だからこそ、俺は温存させてもらっていたからね」
刀身からは黒い霧が溢れ出し、その霧がシンの体を包み込んでいく。
観客席からの歓声は止み、所々から悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
「俺の全力をぶつけるとしよう。そして、手始めに一番邪魔になりそうなアルを殺す」
「殺すだと? ……まさか、お前!」
「さあ――勝負!」
黒い霧が全身を包み込んだ途端、地面を踏み砕きながら一気に間合いを詰めてきたシン。
振り抜かれた漆黒の剣を魔力を纏わせたアルディソードで受け止めたのだが、嫌な予感が全身を駆け巡り無茶苦茶に魔法を放ちながら距離を取る。
最初と同じだけの距離を稼いだアルが見たものは、嫌な予感が的中していたという事実だった。
「……魔力が、吸い取られた?」
「へぇ、よく分かったね。初見でデスポイドの効果を見極めて回避するなんて、驚きだよ」
「まあ、嫌な予感がしていたからな。だが、殺すとはどういう意味だ? その剣が自動治癒を無効化できるとでも言いたいのか?」
そんなアルの言葉にシンは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべる。
「……全く。アルの洞察力には恐れ入ったよ」
「それじゃあ、やはり」
「その通り。この剣は、あらゆる魔法効果を吸収、もしくは無効化させることができる。だから、この剣で傷を付ければそこに対して自動治癒は作動しなくなるんだ」
「……何が目的だ?」
情報を得る為にアルはあえてシンと対峙する事を止めない。
そして、横目で試合を見ているであろう審判を見る。だが――
「ちなみに、そこの審判は俺たちの手の者だ。だから、こうして話をしていても何ら問題はないわけだ」
「……そうか。なら――!」
観客席にいるレオンたちに知らせようと魔法を放とうとしたが、それをシンがさせてはくれない。
再び間合いを詰めて剣を振るい、アルに剣を使わせる。
「せっかくの一対一じゃないか! もっと楽しもうよ、アル!」
「くっ! 貴様、何のつもりだ!」
「少しでも気を抜けば俺が君を殺すよ! そして、君を殺した後には仲間たちもだ! 彼らも実力者だからね、俺たちの革命の邪魔になる!」
「なあっ! ……いいだろう、シン」
纏わせている魔力を解き、純粋な剣術で打ち合いながら言葉を交わしていく。
「俺がお前を止める!」
「できるかな、アル?」
「できるさ。そして、全てを白状してもらうぞ!」
「……あぁ、分かったよ。俺に勝てたら、全てを教えてやるさ!」
そして、アルとシンの戦いは激化していく。
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