第312話:パーティ部門・決勝戦

 決勝戦開始の一時間前になった。

 すでに会場は満員となっており、観客席の壁際には立ち見まで発生している。

 街の酒場では昼間だというのに酒が出され、魔法競技会の試合が賭けの対象にまでなっている始末だ。

 直接試合を見る事ができないというのに、この騒ぎようなのだから魔法競技会が人気になるのも納得というものだろう。

 全く関係ない者たちが大騒ぎをしている中、決勝戦に勝ち上がった二つの学園は緊張の真っただ中にいた。


「いいわね、アル? 絶対に勝つのよ!」

「……何故にそんな圧力をかけてくるんですか、ヴォレスト先生?」

「何故かって? それはね――」

「ユージュラッド魔法学園の勝利に有り金全部を賭けちゃったからですよね、先輩?」

「それを言うな!」


 純粋な応援かと思いきや、まさかの賭けが絡んでいると知ってわずかながらに落胆してしまうアル。


「ヴォレスト先生はお金に困ってないでしょうに。……素材のお金も余ってるでしょう?」

「ギクッ!?」

「素材って、アル君が先輩から貰ったアイテムボックスの代金……って、十分な支払いが終わったのにまだ受け取ってるんですか先輩!!」

「い、いや~! その、色々と入用があったからね~!」

「それ職権乱用ですよ! レオン様やラミアン様に言いつけますからね!」

「そ、それだけは止めてちょうだい!」


 教師二人の言い合いは置いておき、アルは試合に挑むメンバーに振り返った。


「さて、今日で魔法競技会も終わりだな」

「長かったような、短かったような……」

「私たちはパーティ部門にしか出てないから、短かったかも」

「そうかもね~」

「でもさ。どうせなら、弟君に有終の美を飾らせたくない?」

「さんせーい! 私、頑張っちゃうからね!」


 緊張はしているが、適度にほぐれている。

 軽口を言い合える余裕があり、さらに気力に満ち溢れている。


「良い状態だな」


 試合開始の時間が刻一刻と迫る中、アルはメンバーとの雑談からそう感じ取った。

 控え室にいる状態でも会場の熱気が伝わってきており、それも気力を満たしている要因だろう。


『――それでは! 決勝戦に参加する学園の代表が入場します!』


 呼び込みをする声が聞こえてきた。


「よし、行くぞ!」


 呼び込みに合わせて声を張り上げたアルは、メンバーを引き連れて舞台へと向かった。


 ※※※※


 ――一方、逆側の控え室ではシンたちが話し合いを行っていた。


「それじゃあ、みんな。決勝戦だ」

「気合いが入るぜ!」

「冷静になってくださいよ、ルグ」

「そういうフォンもやる気満々じゃないのよ!」

「からかわないでください、ミラ」


 前衛のルグとミラが昂っているところを、フォンが冷静に声を掛ける。


「気合いを入れるのはいいけど、こっちの助けにもなってよね」

「後衛は二人ですから、負担が大きいですし」


 アスカとルカは戦力分析を行いながらそう口にする。


「残念ながら、俺はアルの対応で精一杯になりそうだけど?」

「あっちの前衛……銀髪の女と黒髪の男をさっさと仕留めればいいんだろう?」

「そう簡単にはいかないでしょうけどね」

「そうかしら? あっちの前衛が三人、こっちが四人。二人掛かりで一人を仕留めれば、後は簡単じゃない?」

「……試合は足し算や引き算で決まるものではないですよ」

「あぁー! フォン、バカにしたでしょう!」

「そうだな! こいつ、バカにしやがった!」


 ギャーギャーと騒ぐ前衛の三人を置いておき、シンは後衛の二人に声を掛けた。


「確かに足し算や引き算ではないけど、数の優位を活かすことはできる。そして、それを可能にするには二人の頑張りが必要だ」

「その点は頑張るけど、二対三だから期待はしないでよね?」

「そう、ですね。私もアスカさんの意見と同じです」

「数で言えばそうだけど、実力的にはこっちが有利だから。後衛の赤髪の女の子はレベルが高そうだけど、残りの二人はそうでもないから」


 シンはユージュラッド魔法学園の戦力分析をしっかりと行っていた。

 レベル3の土属性が心の属性であるラーミアと、魔法装具で底上げしているとはいえレベル2が最高レベルであるリリーナ。

 フレイアを足したとしても、アスカとルカが負けるとは思っていなかった。


『――それでは! 決勝戦に参加する学園の代表が入場します!』


 呼び込みの声が聞こえると、シンは笑顔を浮かべながらこう口にした。


「さあ、始めようか。俺たちの――革命を」


 不穏な言葉を口にしたシンだったが、誰もその事を指摘することはなかった。

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