第311話:パーティ部門・四日目⑥
初めて目にしたシンが戦う姿に、多くの者が驚きに目を見開いている。
そんな中で、アルだけは当然だろうと言った感じでシンを見つめており、決勝戦が楽しくなるなと考えていた。
「……凄い方ですね」
「……準決勝の相手を、一人で片付けたわね」
「あれは、僕でも厳しいかな~」
「私も無理! アル君に任せるわ!」
「……弟君、任せたわよ」
「もちろん。シンの相手は俺がするさ」
メンバーからの期待に力強く答えたアルの右手は自然とアルディソードの柄を触っている。気の昂りを抑える事に必死な状況だった。
「アルよ、勝てそうか?」
「大丈夫です、父上。負けるにしても、相打ちには持っていきますから」
「アルがそこまで言う程の実力なのかい?」
「……はい。はっきり言って、キリアン兄上よりも強いかもしれません」
「……だろうね。僕もそう感じたよ。それに、彼はまだ何かを隠している気がする」
「それに、他の奴らも隠しているだろう。戦う前、何か相談していたからな」
最後のガルボの言葉に全員が頷いていたものの、その何かの正体には気づいていない。
だが、アルは一つの推測に行きついている。
それは、シンの足捌きを見ていて気づいたものだった。
「前衛は全員が武術を用いてくると思います」
「……そうなの?」
「……気づかなかったなぁ」
「上手く隠していますが、魔法師の動きではなかったですし、巧みすぎます」
「なら、私とジャミール先輩で三人を抑えないといけないわね」
「武術の実力が分からないから、必死になるかもしれないね~」
「負ける事を覚悟して、私がアースアーマーで抑えに行こうか?」
「それは悪手。でも、状況と相談になるかもしれないわね」
シエラ、ジャミール、ラーミア、フレイアが意見を口にしていく。
観戦席は一瞬にして会議室に一変した。
「……アル様、勝てそうなのですか?」
「正直に言えば、分からない。シンの実力の一端を見る事はできたが、全てを把握できていないからな。逆に、シンは俺の実力のほとんどを目にしているから、対策もできているだろう」
「そうですか……」
そこで何故か下を向いてしまったリリーナに、アルは心配そうに声を掛けた。
「どうしたんだ?」
「いえ、その……私はアル様の力になれているのかと、心配になっているのです」
「え? リリーナはもの凄く力になっているじゃないの」
アルに対しての問い掛けだったのだが、答えてくれたのはフレイアである。
驚いて顔を上げたリリーナが見たものは、全員がこちらを見ている光景だった。
「二回戦では私たちを助けてくれたじゃないの」
「むしろ、私の方が力になれてないわよ~」
「うん。リリーナは、とても役に立っているわ」
「アル君だけじゃなく、僕たちの力にもなってるよ~」
「そういう事だ。Fクラスだからとか、レベルが低いだとかは関係ない。実戦で力になれているかどうかが大事で、それを判断するのは自分じゃない。周りのみんなだ。俺もそうだし、他のみんなもリリーナに助けられている。だから、自信をもって魔法を使えばいいんだよ」
「アル様、皆さん……はい、ありがとうございます!」
同じFクラスのアルは規格外。他のメンバーは全員が上位のクラスに在籍している。
自分だけがFクラス妥当の実力だと思い込んでいたリリーナにとって、アルたちの言葉は心に響いていた。
「それで、アルはシンの対策を考えているのかしら?」
シエラが話し合いを終えて質問を口にする。
「まあ、全力で戦うだけさ。魔法も剣術も、全てを出し尽くす」
「そう……なら、安心ね」
「そうなのか?」
安心という言葉にアルが疑問を口にした。
だが、安堵の表情を浮かべているのはシエラだけではなかった。
「僕たちはアル君の事を信じているからね~」
「というか、本気になったアル君に勝てる相手がいるとは思えないわ!」
「期待しているわよ、弟君!」
「わ、私もアル様を信じています! 絶対に勝って優勝しましょう!」
リリーナがみんなから評価されているのと同じで、アルも高い評価を得ている。
というか、アルを評価していないのは古い習慣に囚われている貴族くらいだろう。
「アルの言う通り、ラグナリオン魔法学園も武術を用いてくるとなれば、面白い事が起きそうだな」
「父上、それは良いお話ですか? 悪いお話ですか?」
「誰がどう考えても悪い話だろう。父上も兄上も、分かっているでしょうに」
決勝戦に勝ち上がった学園がどちらも武術を用いて戦い始めた時、どのような反応を見せるのかとレオンは楽しそうに笑っている。
だが、その結果がアルたちの勝利で終わることを信じてもいた。
「明日の決勝戦、楽しみにしているぞ」
「もちろんです、父上」
力強く答えたアルの頭を優しく撫でたレオン。
最後は穏やかな雰囲気の中で観戦席を後にして宿屋へと戻る。
そして――決勝戦が始まる。
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