第310話:パーティ部門・四日目⑤

 ――舞台上ではすでに試合を行う選手たちが持ち場についている。

 準決勝第二試合はラグナリオン魔法学園と南の強豪であるバージニア魔法学園。

 全員が男性のバージニア魔法学園だが、対戦相手に女性がいる事を知ると嫌な表情を浮かべていた。


「女が戦場に立つとは、不快!」

「はあ? ……ねえ、シン。あいつ、何を言っているのかしら?」


 前衛に立つミラが苛立ちを隠すことなくシンへ振り返り問い掛ける。


「いや、俺に聞かれても」

「貴様! 一回戦から女に戦わせるだけで何をしている!」

「俺は決勝戦まで温存されているからね。戦略だよ、戦略」

「黙れ! その余裕、俺様がぶち壊してやる! 女に負けるなど、あり得ないのだからな!」

「……はああああああぁぁ?」


 自信満々に言い切ったバージニア魔法学園のリーダーであるグルド・ルックナーに対して、ミラが盛大に声をあげた。


「シン! あいつは私が絶対に倒す! 本気でやってもいいわよね!」

「……えぇぇ~? それって、あれも出すって事?」

「そりゃそうよ! 一瞬で倒してやるから!」

「なんだ? 女に俺の相手をさせるってのか? いいぜ、後悔させてやる!」

「……了解。ミラ、こいつは僕が相手をするよ」

「よっしゃ! それじゃあ本気で……って、ええええええええぇぇっ!?」


 シンは自分が悪く言われる事に関しては寛容である。

 だが、信頼している仲間を悪く言われる事に関しては我慢が効かない。

 ミラに任せても問題はないと判断しているが、グルドが自分との対戦を切望しているのであれば、それに乗っかって叩きのめすのもありだと決断した。


「ちょっと、シン!」

「おいおい、シンよ。お前は温存するって言ってるだろう?」

「そうですよ、シンさん」


 ミラ、ルグ、フォンが順番に慌てて声を掛けるが、シンの決意は変わらなかった。


「いや、あいつはミラをバカにしたんだ。リーダーである俺が、粛清しなければならない」

「しゅ、粛清って……」

「シンさん、怖いです」


 アスカとルカはその後の発言に顔を青くしている。


「あいつはミラに後悔させると口にしたんだ。なら、俺があいつを後悔する程の倒し方をしても文句は言えないだろう?」

「くくくっ! いいぜ、来いよ! お山の大将を倒したら、女共を倒してやる!」

「……さあ、蹂躙の時間だな」

「「「「「……怖い」」」」」


 ミラだけではなく、女性陣に侮辱を口にしたグルドに対してシンは明らかな敵意を向ける。


「……ん? ううんっ! ……なんだ?」


 グルドだけに重くのしかかるシンの殺気に僅かながら呼吸がし難くなっていた。

 だが、それがシンの仕業だとは気づけなかったグルドは首を傾げるだけで持ち場に戻っていく。


「……全く。準決勝に勝ち上がった学園の生徒のくせに、この程度か」

「……シン、本当に戦うの?」

「あぁ。みんなを侮辱したあいつを許すわけにはいかないからな」

「私たちは別に構わないわよ?」

「そ、そうですよ? シンさんが無理をする必要はありませんよ?」

「ありがとう、みんな。でもね――僕の気持ちがそれを許さないんだよ」

「「「……はい。頑張ってください」」」


 殺気が可視化されたように見えたのか、女性陣三人は素直にエールを送る。

 残る男性二人は諦めたかのように顔を見合わせると肩を竦めた。

 ここに至り、シンが初めて前衛の立ち位置に移動する。

 その視線はニヤニヤと笑みを浮かべているグルドに固定されており、開始の合図と同時に激突する構えだ。


「ねえ、これって……」

「あぁ、そうだな……」

「私たちの出番って……」

「ないな、こりゃ……」

「シンさん、怖い……」


 シンはグルドの相手をすると口にしたが、残る五人の相手をするとは一言も口にしていない。

 だが、ミラたちはそれでも出番がないと口にする。


「準決勝第二試合――開始!」

「撃てえっ! てめえらあっ!」


 開始の合図とともに声を張り上げたグルドは、メンバー全員でシンめがけて魔法を殺到させた。

 これはグルドからすると予定通りの展開であり、だからこそミラやシンに対して挑発を行っていた。

 自分で傲慢な魔法師を演出し、温存されているリーダーを前線に立たせ、何もさせずに一気に仕留める。

 そして混乱している残りのメンバーを各個撃破する事で決勝進出が決まる。


「戦略は、お前たちだけが持っているものじゃない――!?」

「ウォーターカッター」


 いまだ途切れることのない魔法の弾幕を中央を突破してきたシンの声が、グルドの耳元で聞こえてきた。

 直後、ウォーターカッターがグルドの首に命中して意識を失う。

 リーダーが落ちれば残りが混乱する。

 奇しくも、グルドが思い描いていた状況はバージニア魔法学園側に訪れる事になる。


「僕に攻撃を仕掛けたんだ。君たちも、当然分かっているよね?」


 シンの呟きが聞こえていたのかどうかは分からない。

 だが、その言葉から一分も経たずしてバージニア魔法学園の面々は舞台に倒れていたのだった。

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