第305話:パーティ部門・三日目⑤
その日の夜、アルは他の面々と分かれて別の宿屋に足を運んでいる。
そこはユージュラッド魔法学園が貸し切っている宿屋よりも格式が高く、普通の学生が足を運べるような場所ではない。
ならば何故アルがそのような場所にいるのかと言えば――
「今日の試合は危なかったんじゃないか、アル?」
「いやいや、父上。アルがあの程度でやられるはずがないですよ。デーモンナイトを倒した男ですよ?」
「それに、僕にも模擬戦で勝ってるんだから、三回戦で負けるはずはないよね」
「アルお兄様! とっても格好よかったです!」
「はい! 私も驚きました!」
「うふふ。アルが来てくれたから、今日の晩餐はとても賑やかね」
ノワール家が貸し切っている高級な宿屋。
アルは久しぶりに家族との夕食を楽しんでいたのだ。
「いや、さすがに危なかったと思います。火属性が心の属性だと読んでいたので、足元に水属性の魔法を仕込んでいなければ丸焦げでした」
「でも、アルなら丸焦げになったとしても反撃はしたんじゃないかな?」
「それはまあ、ただでやられるわけにはいきませんからね」
キリアンの質問にアルは笑いながらそう答える。
事実、アルはどのような反撃を受けようとも疾風飛斬を叩き込む心積もりで突進していた。
トラップ型の魔法があったのには内心驚いていたものの、それでも耐えられない程ではなかったので何とかなったのだ。
「アルの読みは正しい。だが、レベル1の水属性で耐えられるとは思えんのだがな」
「魔法装具もありますし、そんなに疑問に思いますか、父上?」
「魔法装具があっても難しいのだよ。何故なら、対戦相手だったフェリス・リッツフォンの火属性レベルは5。つまり、最高ランクの魔法師だからな」
凄腕だとは思っていたが、レベル5だとはさすがのアルも気づけなかった。
「それは本当ですか、父上?」
「あぁ。リッツフォン家とはよく交流を持っていてな、その時に聞かされた。まあ、娘自慢をする父親にだがな」
「それは父上がキリアン兄上を自慢しまくったのが原因でしょうに」
「……それを言うな、ガルボ」
何やら頭を抱えてしまったレオンを見て、似た者同士が集まったのだと納得したアルは、隣でくすくすと笑うラミアンに視線を向ける。
「それで、魔法装具があっても難しい、というのは? レベル差はどうしようも無いにしても、魔法装具である程度は補填できるはずですよね?」
「それはそうなんだけど……というか、アル? それ以前にレベル1とレベル5でどうして耐えれたのかを教えてくれないかしら? そもそも、これだけの差があったら魔法装具があっても諦めるしかできないはずなんだけれど?」
「私としては特別な事はしていないつもりなんですが……」
そう前置きを口にしたアルは、自分が行った事――魔法師ではあり得ないだろう事を説明した。
「まず初めに舞台から火柱が発生するのを感じ取りました。直後に魔力の流れを感じ取り、どこに立てばより影響を受けないかを探りました」
「アルお兄様が言っていた魔力を感じるあれですね!」
「あぁ。そう言えば、アンナはずいぶんと上達しているから、同じ事ができると思うぞ」
「まだ瞬時に感じ取る事はできないから、それはさすがに無理ですよ」
あははと笑うアンナとは対照的に、他の面々は驚きのまま表情を硬くしている。
「えっと……それで、アルディソードで限界まで水属性を強化して、影響を与える部分の火柱を防ぎました」
「魔法を使いながら、剣術まで使いこなすか。どれだけ集中していたんだ」
「集中は全て魔法に注いでいました。剣術に関しては……まあ、体が勝手に動くもので」
アルとしては当然の答えだったのだが、何故か今回はアンナも含めて全員が固まってしまった。
「……それはもう、魔法師ではないよね」
「……勝手に魔法を、じゃなくて剣術を、だからな」
「……さ、さすがはアルお兄様です!」
「……わ、私も素晴らしいと思います!」
「はぁ。まあ、アルは我が道を行くタイプだから、こいうこともあるか」
「うふふ。面白くなりましたね」
一人みんなの反応に納得がいかないアルは困惑していたが、お茶のおかわりを運んできたメイドにだけは笑みを向けられた。
「アルお坊ちゃまは剣士ですからね。仕方がありません」
「あはは。ありがとうございます、チグサさん」
この世界でのアルの師匠でもあるチグサだけは、アルの努力を間近で見続けてきた。
その結果が今の発言なのだと理解し、嬉しく思っていたのだ。
「……まあ、ここが魔法競技会という場でなければ、もっと素晴らしかったのですけどね」
「……あはは、はは……はぁ。そうですよねー」
最後には溜息を漏らされたのだが、それはそれでしょうがないと思うアルなのだった。
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