第304話:パーティ部門・三日目④
火柱に飲み込まれたアルを見て驚愕の表情を浮かべるユージュラッド魔法学園の面々。
「全火力を集中させろ!」
フェリスの指示は止まらない。
アルを飲み込んだ火柱めがけてフィリア魔法学園の魔法が殺到する。
「ア、アル様を守ります!」
すかさずユージュラッド魔法学園に指示を飛ばしたのはリリーナだった。
シエラとジャミールは前衛のヘリンとルリルの足止めのため、傷を負う事を厭わずに突っ込んでいく。
残るリリーナたちは火柱の周囲に魔法の壁を作り出して殺到する魔法を防ごうと試みる。
「吹き飛ばせ! アル・ノワールを仕留めれば私たちにも勝機は生まれる! ここが最初で最後のチャンスだぞ!」
「やらせません!」
全ての魔力を使い切るつもりで魔法を発動させていくリリーナ。
だが、木属性と火属性では相性が悪く、顕現した植物の壁は悉く燃やされて灰になっていく。
それでも魔法を止めないのは、アルが倒れていないと信じているからだ。
「しぶといわね!」
「絶対に……やらせませんから!」
歯を食いしばり、ふらつく両足に力を込めて、リリーナは咆える。
その瞳には火柱の中で耐えるアルの姿が映っていたのかもしれない。
シエラとジャミールも前衛の二人を完全に抑え込んでいる。
この状況はフェリスも予想外だったのか、その表情には焦りの色が見え隠れし始めた。
「――疾風飛斬」
そこに響いてきた声にリリーナは歓喜し、フェリスは絶望する。
火柱を切り裂き、飛んでくる魔法をも両断しながら迫る飛ぶ斬撃。
咄嗟に体を捻り直撃は避けたものの、左肩に鋭い痛みが走る。
苦悶に歪む表情になりながらも、フェリスの火柱の火力をさらに上げた。
「うおおおおおおおおっ!」
「見えてたものが見えなくなっているぞ?」
「え?」
先ほどまで火柱の中にいただろうアルの声が後方から聞こえてきた。
あまりの驚きに素の声が漏れたのだが、そこでフェリスの意識は途切れてしまう。
「アル様!」
「フェリス!」
「えっ! フェリスちゃん!?」
リリーナの歓喜の声を耳にして異常を感じたヘリンとルリルが振り返ると、地面に倒れているフェリスの姿が視界に飛び込んでくる。
そのままアルが二度剣を振り抜くと、残る三人の後衛が次々と倒れていく。
「よそ見をしない」
「何とか勝てたね~」
「「――!」」
ヘリンとルリルの首に刃が滑り込み、二人の意識も途切れてしまった。
この瞬間、ユージュラッド魔法学園の勝利が決定したのだった。
◆◆◆◆
控え室に戻ったユージュラッド魔法学園の面々は、全員がアルに集まり何があったのかを質問していた。
「無事でよかったです、アル様!」
「っていうか何をしたのよ!」
「本当だよね! 何が起きたのかさっぱり何だけど!」
「僕もわからなかったな~」
「教えなさい、アル」
「……お、落ち着けよ。とりあえず、移動しないか? 次の試合もあるだろうし」
アルが全員を落ち着かせると、渋々といった感じで控え室を出て廊下を進む。
その途中、ラグナリオン魔法学園の面々とすれ違う。
彼らの試合は次の次なので控え室に入るのはまだ先である。
ならば何故ここにいるのかと誰もが疑問に思う中、アルだけは笑みを浮かべてシンに声を掛けた。
「久しぶりだな」
「開会式以来だね。そうそう、準決勝進出おめでとう。いい試合だったね」
「ありがとう。そっちの試合も毎回楽しく観戦しているよ。ただ、シンが出てこないから研究のしがいはないけどな」
「そうかい? でも、パーティ部門は譲るつもりがないから、この試合も出るつもりはないかな」
「それは残念だ」
肩を竦めながらそう口にすると、シンも笑みを浮かべてから歩き出す。
「まだ気が早いけど、決勝で対戦できることを楽しみにしているよ」
「俺もだ」
そして、ユージュラッド魔法学園とラグナリオン魔法学園の面々はすれ違っていく。
その中でアルと対戦をしたアスカだけが手を振ってきた。
「リベンジさせてよね」
「負けるつもりはないぞ?」
「言わせておいてあげるわ」
対戦相手はシンだけではない。
その事を強く意識する事ができたやり取りだった。
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