第303話:パーティ部門・三日目③
魔法だけではなく武術にも優れているシエラとジャミールである。そう簡単には負ける事はないとメンバーの誰もが思っていただろう。
だが、実際は苦戦とは言わないまでも攻めあぐねている状況が続いていた。
「動かすなよ!」
「はいはーい! 了解だよー!」
「この子、先を読んでいるわね!」
「やりづらいかな~!」
ルリルが二人の動きを完全に先読みし、動かれる前に魔法を飛ばして牽制している。
そのせいで動きを止めてしまい、さらにそこをヘリンが撃ち抜こうと狙っている。
シエラとジャミールはお互いが撃たれないよう庇い合いながらの戦いを強いられていた。
「正攻法がダメなら、フラッ――」
「真似っこしちゃおっとー!」
「先に――きゃっ!」
目くらましのために放とうとしたフラッシュだが、シエラよりも先にルリルが発動させて視界を奪われてしまう。
咄嗟の判断で目を閉じて回避したジャミールは闇属性のレベル2魔法――ダークフィールドを発動させた。
一定空間を漆黒にするダークフィールドは、フラッシュとは真逆の発想で視界を奪うのだが、違いは範囲指定をする事ができる事と、対策がなされていなければ対処が難しいという事だ。
フラッシュのようにその場で目を閉じて回避する、という事ができない分でいえば厄介ではある。
だが、対処できないわけではない。
「フラッシュ! ……ありゃー、あっちの方がレベルが高いみたいだよ、ヘリンちゃーん」
「移動するぞ!」
「面倒だけど、仕方ないねー」
ダークフィールドが影響を及ぼすのは、あくまでも一定空間のみ。
空間から出てしまえが影響下から脱出する事ができるのだ。
しかし、シエラとジャミールにとっては相手二人の魔法が途切れるだけでもありがたい時間となった。
「助かりました、ジャミール先輩」
「僕の方こそ助けられてるからね。しかし、闇属性魔法にも対策が完璧だよ」
「そうですね。これは、厄介かもしれません」
先読みに長けたルリルと、的確な指示が出せるヘリン。
二人が揃う事で武術に長けているシエラとジャミールを完全に抑え込んでいる。
これだけでも二人が脅威であることに変わりはない。
それは後方から戦況を見ているアルにも分かっていた。
(あの二人を相手にして、同数で抑え込むのは凄いな。個々の実力はシエラとジャミール先輩が上だろうけど、揃った時の実力はあちらが上手のようだ。手を貸すならこちらかもしれないが……さて、どうするかな)
直接魔法を放ってもいいし、二人と同様に前線に出て戦うのもありだ。
しかし、それをやらせてもらえない状況が一つだけ存在していた。
「……ふふふ」
フィリア魔法学園のリーダーであるフェリスが魔法を撃ち合いながら、指示を出しながらもアルの動向を監視していたのだ。
(俺が前衛に加勢すれば、後衛の火力を上げに来るだろう。逆に後衛に加勢すれば、撃ち負けたとしても前衛の二人を落としに掛かるはずだ)
現状、アル抜きで五分五分の戦いをしているのだから申し分ない結果なのだが、フェリスにはアルが加わったとしても戦況を一変させるだけの実力を感じ取る事ができるのだ。
故に、アルは慎重に戦況を読んでいた。
先を見据え、どこを犠牲にするか。それともそれ以外の選択がないか。
(……やはり、俺の性格は変わらないか。むしろ、子供になった事でこっちの方が命の大事さを感じているかもしれない)
これは魔法競技会であり、実戦ではない。
死ぬことはないし、多少の無茶は問題ないだろう。
それでも、仲間が傷を負う事をアルは嫌う。
今までのように仲間の厚意で温存してもらえるなら喜んで控えるが、それでも実力が見合わなければ意地でも戦いに参加していたはずだ。
フィリア魔法学園との試合ではどうなるか予測がつかなかったので様子見をしていたが、これ以上は無理だとアルは判断した。
「――瞬歩」
武術に精通していなければ、何が起きたのか分からなかっただろう。
アルの動向を監視していたフェリスですら、反応に一歩遅れてしまったのだから。
ユージュラッド魔法学園側の最後方から、瞬歩を用いてフィリア魔法学園の最後方まで、戦場のど真ん中をアルは駆け抜けたのだ。
「狙いは私か!」
「斬らせてもら――っ!」
だが、あと一歩というところに足を踏み込むと、そこから火柱が噴き上がった。
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