第302話:パーティ部門・三日目②
ユージュラッド魔法学園の対戦相手は西の強豪であるフィリア魔法学園。
全員が女性で構成されたメンバーは見目麗しいだけではなく、その実力も確かなものがある。
何故ならメンバーの中には個人部門のベスト4の者もいるからだ。
「おっ! 個人部門の優勝者だ! 握手しようよ!」
「こらこら、相手は対戦相手だろうが!」
「すまんね。こいつ、強い奴が好きだからさ」
「あー、いえ、特に気にしてませんので」
対戦前から調子が狂うなと思いつつも、悪意は感じられなかったので差し出された手を取る。
「ありがとうございます!」
「全く。君も大概におかしな奴だな」
「そうですか?」
「これから戦う相手だというのに握手だぞ?」
「好意を向けられるのは久しぶりなので、飢えていたのかもしれませんね」
アルの言葉にリーダーと思われる紫髪の女性生徒は苦笑を浮かべた。
「確かにそうかもな。……すまん、申し遅れたな。私はリーダーのフェリス・リッツフォンだ」
そこから突然の自己紹介が始まった。
黒髪で眼鏡を掛けているのがヘリン・ハーティア。
金髪で活発なおさげ髪のルリル・ホリッシュ。
だが、自己紹介をしてくれたのはフェリスを含めた三人のみで、残る三人は後方で嫌悪感丸出しの表情を浮かべていた。
「……こちらのメンバーがすまん。彼女たちは、ユージュラッド魔法学園の戦い方を良しとしていないんだ」
「そういった方が大多数でしょうね。でも、フェリスさんたちは?」
「最初は私たちもどうかと思っていたが、個人部門のアルさんの優勝を見てからは武術も素晴らしいものがあると感じたんだよ」
「強いって最高だよね!」
「ルリルは極端なんだよ!」
握手を交わしたルリルがとても元気よくそう口にしてくれて、アルとしては少しばかり気分が良くなる。
今日もブーイングばかりが降り注ぐか、警戒する様な視線だけが送られると思っていたからだ。
まさか対戦相手から称賛されるとは思っていなかったが。
「今日は良い試合にしよう」
「でもでも! 勝つのは私たちだからね!」
「お手柔らかに頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いします」
最後にはフェリス、ヘリンとも握手を交わしたアルはメンバーたちのところへと戻る。
「どうだった?」
「前に出てきた三人は気持ちの良い感じの人たちだったよ」
「パーティでも意見が分かれているんだね~」
「そこが狙い目になってくれるといいんですが」
「なるでしょうね」
「連携が大事だものね!」
それぞれが意見を交わし合い、そして持ち場へと歩いていく。
アルは今回も最後方から戦況を見守る立場になるが、今回は出番があるかもしれないと思っていた。
「……強者の気配があるな」
シンやレイリア程ではないが、それでも強者の気配を感じたアルは視線をとある人物に向ける。
その人物はアルの視線に気づいたのか、顔を上げると目と目が合い、微笑んだ。
「……楽しみだな」
アルの呟きのすぐあと、審判から試合開始の声があがった。
「パーティ部門、三回戦第二試合――開始!」
ユージュラッド魔法学園からはシエラとジャミールが魔法を放ち、フィリア魔法学園からはヘリンとルリルが前衛として迎撃する。
残る四人は全員後衛だが、前に出てこなかった三人もフェリスの指示には従っているようで、前衛の二人の上から後衛を狙って魔法を放っていた。
迎撃するのはこちらも後衛の二人と中衛の一人。
だが、人数もそうだが属性レベルでも差がある両者では、徐々に優劣はついてきてしまう。
「くっ!」
「押し返されます!」
「いきなり、使わないといけないっての?」
「全員散開!」
「「「――! はい!」」」
ラーミア、リリーナ、フレイアが苦しんでいるところへ響いてきたアルの声。
三人は瞬時に返事をすると、魔法を放ちながら舞台の端まで全力で駆け出した。
「ま、魔法を使いながら移動ですって!」
「それも全力疾走!」
「あり得ないわ!」
三人の後衛は驚愕の声を漏らしているが、フェリスだけは想定していたのか変わらずに魔法を放ち続けている。
「集中を切らすな! 来るぞ!」
そして、怒声にも似た声音で指示を飛ばした。
だが、ここで練度の違いが出てしまう。
予想外の出来事にも瞬時に対応してみせたユージュラッド魔法学園の三人とは異なり、フィリア魔法学園の三人は動揺からすぐに立ち直る事ができずにいる。
フェリスが声をあげた事で押し込まれるところまではいかなかったものの、これで優位だった後衛同士の打ち合いは五分五分まで戻されてしまった。
「……後衛はひとまず問題なしか。次は前衛だが――」
上空での攻防から視線を離したアルは、次に地上で放たれる魔法合戦に目を向けた。
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