第301話:パーティ部門・三日目
三回戦が行われる。
アルたちも当然ながら控え室で出番を待っているのだが、その前の試合で予想外の出来事が起きてしまった。
「カーザリア魔法学園、負けたな」
「はぁ。あれだけ啖呵を切っておいて、まさか私たちと当たる前に負けるなんてね」
「レイリアちゃんが出てたらまた変わっただろうけど、ヴォックスが率いるメンバーじゃね~」
カーザリア魔法学園の三回戦の相手は東の強豪、ゼリンドル魔法学園。
魔法競技会ではカーザリア魔法学園と毎年のように優勝を争うゼリンドル魔法学園は、徹底的に相手を研究して三回戦に挑んでいた。
一方のカーザリア魔法学園はヴォックスがアルの事ばかりを考えており、相手を研究するという大事な要素を行っていなかったのだ。
結果的にその差が大きく出てしまった。
今までと同様に広域魔法を放って先手を取ろうとしたカーザリア魔法学園だが、ゼリンドル魔法学園は攻撃の手を止めて全てを防ぎ切る。
まさか一人として落とせないとは思わなかったのか、次の行動までに一瞬の隙が生まれてしまう。
その隙を突いてゼリンドル魔法学園の前衛がカーザリア魔法学園の前衛の一人を集中して狙い、先に落としてしまった。
六人の中では一番魔法操作に劣る者だったが、落とせるところから落とすという基本に忠実な戦術を用いて、正攻法でカーザリア魔法学園を追いつめていく。
もちろん、大口を叩いていたヴォックスが黙っているはずもない。
レベルの高い魔法を放っていたのだが、選択した魔法が悪手だった。
一撃で決めるために威力の高い魔法を選択したのだが、狙えるのは一人のみ。
そして、冷静さを欠いていたヴォックスが誰を狙っているのかは誰の目から見ても明らかだった。
狙われた者は回避に専念し、残った面々が一人、また一人と集中的に落としていく。
一対一であればここまで追い込まれる事はなかっただろう。だが、数的優位を作り出せた時点でゼリンドル魔法学園の勝利は決まったと言っても過言ではなかった試合展開だった。
「初めて観戦した試合で負けるなんて……何というか、不運でしたね」
「弟君が呪いでも掛けたんじゃない?」
「えっ! そんな事もできるの、アル君!」
「で、できませんから! 変な事を信じないでくださいよ、ラーミア先輩は!」
これでは賭けが有耶無耶になってしまうと思いつつも、面倒が一つ片付いたことに安堵もしている。
そして、上ばかり見ていたら足元をすくわれるという教訓を見ることができた。
「俺たちも気を引き締めて戦わないといけないな」
「それでも、アルは様子を見ていてちょうだいね」
「僕たち五人、できるだけ温存させてあげたいからさ~」
「私も全力で頑張ります!」
「よーし! 私も頑張るわよー!」
全員が気合いのこもった声をあげている中、一人だけ口をつぐんでいる人物がいる。
「魔法装具、持ってきたんですね」
「ん? あぁ、そうだね。でも、使うかどうかは分からないわよ?」
フレイアが魔法装具を腰に下げているのを見て、アルは声を掛けた。
「使わないんですか?」
「……正直、まだ迷っているわ。みんなはああ言ってくれたけど、私の手で仲間を傷つけるかもしれないと思うと、やっぱりね」
「そうですか……それじゃあ、こんなのはどうですか?」
不安そうなフレイアを見かねて、アルは一つの提案を口にした。
「俺が判断を下します」
「弟君が?」
「はい。一応、俺がリーダーって事になってますし、その判断で魔法装具を使うなら問題ありませんよね?」
「でも、それで仲間が傷ついたら?」
「それも俺の責任です。何せ、リーダーですから」
笑いながらそう口にしたアルを見て、フレイアは小さく微笑んだ。
「全く。弟君はガルボと違ってしっかりしてるわね」
「ガルボ兄上の方が俺なんかよりもしっかりしてますよ」
「そうかしら?」
「キリアン兄上を支えるために勉学に励んでますし、俺のためにも動いてくれてます。間に挟まれながらも、みんなのためにってやってくれているんですからね」
「それを口にできるあたり、やっぱり弟君の方がしっかりしてるわよ」
最後には普段通りの快活な笑みを見せながらアルの肩をポンと叩いた。
「それじゃあ、弟君の判断に従うわ。使いどころ、間違えないでね?」
「了解です」
全員の気持ちが三回戦へ向いたところで、アルを先頭に舞台へと歩き出した。
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