第300話:パーティ部門・二日目④
――アルたちが盛り上がっている中、別の建物では重たい空気が広がっている。
宿屋ではなく、カーザリア魔法学園の生徒が寝泊まりをしている学園所有の宿舎だ。
二回戦からの登場で問題なく勝利を収めている。どこにも空気が重たくなる要素は無いように見えるのだが、どうした事だろうか。
「くそっ! どうしてあいつらの試合に人気が集中しているんだ!」
「落ち着いてください、ヴォックス様!」
「これが落ち着いていられるか! ここはカーザリアだぞ! 王都だぞ! あいつらに罵声を浴びせるためならまだしも、見る目のない奴らはあの卑怯者に歓声を上げているんだぞ!」
「そ、それは……」
宥めていた生徒の声を尻すぼみとなり、それがさらにヴォックスの苛立ちを増してしまう。
「くそっ! くそくそっ! ……絶対に恥をかかせてやる! 懲らしめてやる! 準決勝であいつを倒して、そのまま優勝まで行くぞ! いいな、貴様ら!」
「「「「「は、はい!」」」」」
三回戦のことなど全く考えていないヴォックスは、準決勝で対戦するだろうアルの事だけに頭の中を支配されていた。
※※※※
――また別のところ、こちらは宿屋である。
ユージュラッド魔法学園のように賑やかでもなく、カーザリア魔法学園のように重苦しい空気でもない。いつも通りの雰囲気といえばいいのかもしれない。
「なあ、シン。次の試合も俺たちに任せてくれないか?」
「僕たちだけでも大丈夫だと思いませんか?」
「全学園が集まるって聞いたから手強いと思ったけど、そうでもないよねー!」
前衛として躍動しているラグナリオン魔法学園のルグ、ミラ、フォンが揃って口にする。
「私たちは暇なんだけどねー」
「ですけど~、楽ができるのはありがたいですね~」
後衛であるアスカは退屈そうに、ルカはおっとりとした口調で言葉を発した。
「そうだなぁ……うん、大丈夫だと思うよ。三回戦の相手の試合も見たけど、僕が手を出す必要はなさそうだしね」
シンの言葉に前衛三人は拳を握る。
「だけど、今回はアスカとルカの力も必要になりそうだからよろしくね」
「んなあっ! おいおい、シン。俺たちの実力、知ってるよな?」
「知ってるよ。知ってるからこそ、そう言っているんだよ」
ルグが少しだけ言葉を強くして言い返したが、シンは普段通りに微笑みながら答える。
「次の相手は強力な広域魔法を使ってくる。ルグたちなら回避しながら迎撃できるだろうけど、そこに的確な後衛の魔法が飛んでくるはずだ。そこを抑えるのがアスカとルカってことだよ」
「ようやく出番かな?」
「私は楽をしたいですけど~?」
「あはは。まあ、戦況を見ながら手助けを頼むよ」
後衛の二人の答えに笑いながら答えるシン。
三人のやり取りに異議を申し立てる……かと思えば、ルグはすぐに受け入れていた。
「まあ、シンが言うならそうなんだろうな。頼むぜ、お二人さん」
「僕たちがシンの判断を疑うわけないからね」
「二人の援護があるなら、私たちはもっと自由に動けそうね!」
「任せてちょうだい」
「えぇ~。……まあ、頑張るね~」
そこからは五人で明日の試合についての話し合いが始まる。
これもいつも通りであり、シンはその姿を微笑みながら眺めている。
「……本当に、僕は仲間に恵まれたな」
シンは油断など一切しない。
相手の試合を見て研究し、対策を講じて、効率的に勝てる方法を考える。
しかし、三回戦の事だけを考えているのかと聞かれるとそうではない。
魔法競技会の全体を見据えて、自分が出るべきか仲間に任せるべきかも考えて判断を下している。
(僕の戦い方はまだ誰にも見られていない。三回戦、そして準決勝も温存できれば……アルに勝てる)
個人部門で見せたアルの戦い方は圧倒的だった。
対戦相手のレイリアの実力はシンも認めるところだが、彼女をもってしてもアルは圧倒的な実力を見せつけてきたのだ。
だが、そんなアルを相手にしてもシンは勝てると考えていた。
(……決勝戦までの僕の仕事は、対戦相手を徹底的に分析して、みんなの活躍を助ける事だ)
シンの思惑通りに事が運ぶのか、それとも別の展開が待ち受けているのか。
だが、仲間の事を信じているシンは過度な心配をすることもなく話し合いを続けている五人を見つめているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます