第306話:パーティ部門・四日目
パーティ部門の四日目、準決勝が行われる日。
対戦相手は優勝候補であるカーザリア魔法学園を倒して勝ち上がって来た東の強豪、ゼリンドル魔法学園。
近年ではカーザリア魔法学園とフィリア魔法学園に優勝を明け渡していたが、今年は優勝を狙えるメンバーが揃ったと意気込んでいる。
実際にカーザリア魔法学園を下したのだから、ゼリンドル魔法学園の判断に間違いはないのだろう。そのために研究をし尽くして準決勝まで勝ち上がってきたのだから。
だが、今年はカーザリア魔法学園よりも警戒すべき学園が存在していた。
それは決勝で当たると思っていたフィリア魔法学園ではない。
「おいおい、マジかよ」
「こんな奴らが参加しているなんて、聞いてないぞ?」
「ぼ、僕たち、勝てるでしょうか」
「いやー、さすがに無理じゃねえ?」
「カーザリア魔法学園は近年の中でも一番実力が劣る年だったからな。さすがに難しいと思うわね」
ほとんどのメンバーから諦めに近い声が聞こえてくる中、リーダーの男子学生からは気合のこもった声が張り上げられた。
「お前たち! 何を戦う前から諦めているか! 我々は優勝するためにここに来たんだろうが!」
「そうは言いますけどね、リーダー」
「相手が悪過ぎます。ユージュラッド魔法学園のリーダー、噂じゃあSランク相当の魔獣を一人で討伐したって話じゃないですか」
「個人部門も優勝していますし……」
「いやマジで、無理じゃねえ?」
「私は無駄に痛いのは嫌だからねー?」
ゼリンドル魔法学園側の思惑など知った事ではない彼らからすると、研究もろくにしていなかった相手がカーザリア魔法学園よりもよっぽど強いと分かれば、諦めたくなる気持ちも分からないではない。
それでも、リーダーの男子学生は拳を握りしめて咆える。
「我々はまだ負けたわけではない! 全力でやってみなければわからない事もあるだろう!」
「「「「「わかるから! あんな化け物に勝てる気なんてしないから!」」」」」
現実を直視している五人からは否定的な意見しか返ってこない。
こうなってはリーダーの男子学生も何も言えなくなる――と思いきや、あり得ない提案を口にしてきた。
「ぐぬぬっ! な、ならば、私が宣言してやる! 私がアル・ノワールを倒してやると!」
メンバーからは冷ややかな視線を向けられながらも、リーダーの男子学生は天井を見上げながら満足気な表情を浮かべているのだった。
※※※※
ユージュラッド魔法学園の控え室では、ゼリンドル魔法学園の対策について話し合われていた。
情報はカーザリア魔法学園と試合をした一試合分しかないものの、総合的な判断としてはフィリア魔法学園よりも下であると全員が認識している。
「土属性を多用していた男子学生は要警戒だな」
「最低でもレベル3はあると見たわ!」
「いやいや、レベル4でしょうよ。そいつは私とラーミアで抑えるわ」
アルの言葉にラーミアとフレイアが口々に告げる。
「残りは上手く連携を取って動いていたけど、個々の実力はそこまで高くないかもね」
「カーザリア魔法学園も、ヴォックスの独裁じゃなかったらもうちょっと上手くやれただろうにね~」
「では、お二人のサポートは私がいたします!」
シエラとジャミールが軽く話をしていると、リリーナがやる気に満ちた声でそう告げた。
「俺の出番は無いかもしれないが、今回も危ないと思ったら手を出すからな」
「……本当にごめんね、アル」
フィリア魔法学園の時はアルの判断で動いたが、それに対してシエラは特に落ち込んでいた。
「俺だって戦いたかったからな」
「それでも、私が不甲斐なかったばっかりに危険に晒してしまったわ……まだまだ遠いって、気づかされた」
目標としているアルならば二人を相手取ってもあっさりと勝てていただろうと、シエラは勝手に思い込んで落ち込んでいる。
ジャミールやリリーナが声を掛けてもこの状況は変わらない。
「……なあ、シエラ。俺だって一人でずっと戦ってきたわけじゃないんだぞ? 頼れるときは頼らないと、すぐに心が折れてしまう」
「分かっているわ。それでも、あなたに近づきたいと思うのは当然でしょう?」
「当然なのか?」
「私の憧れなんだからね、あなたは」
憧れと言われてもピンとこないアルは首を傾げてしまったが、このような反応をされる事を理解していたのかシエラは苦笑を浮かべて決意を口にした。
「あの時、大草原で見たあなたの太刀筋は美しかった。それに追いつくためなら、私はどんな苦労も苦労とは思わない。この試合、アルには絶対に何もさせないわ」
「……あ、あぁ。分かった。期待しているよ」
やや困惑気味だったアルだが、期待していると言われたシエラは上機嫌に屈伸を始めた。
「……ま、まあ、気持ちを切り替えられたから、いいのかな?」
プラスに考えようとしたアルの発言を聞いて、ジャミールとリリーナは溜息をつくのだった。
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