第297話:パーティ部門・二日目

 十分な休息を得てからの二日目。

 対戦相手のワーグナー魔法学園は前回の準優勝学園であり、くじ引きによって一試合少なくなっている学園の一つでもある。

 実力もさることながら、万全の状態で二回戦に挑めるとあってアルたちは集中を高めていた。


「一瞬の隙が敗北に繋がることもある。みんな、油断せずにいこう」


 気合の入ったアルの掛け声に、皆が力強く頷くのを見て舞台へと向かう。

 ちょうどワーグナー魔法学園の面々も姿を現したようで、アルは先頭を歩く男子生徒と目が合った。


「……笑った?」


 気のせいかと思ったが、確かに相手の男子生徒は笑っている。


「……どうやら、一筋縄ではいかなさそうだな」


 戦う事に慣れている相手ほど、やりにくい相手はいない。

 場数でいえば、前世も含めるとアルの方が断然多いだろうが、他の面々はそうもいかない。

 スタンピード騒動で活躍したシエラやジャミールよりも、笑った男性は場数を踏んでいるとアルは瞬時に判断した。


「今回もアルは温存でいいかしら?」

「僕たち、張り切っちゃうよ〜?」


 とはいえ、ここで二人のやる気を削ぐことは得策ではないと考えたアルの答えはこうだ。


「あぁ、任せるよ。だけど、危ないと思ったら迷わず手を出すから、そのつもりでな」


 アルなりの注意喚起だった。

 そうなり得るだけの実力を持った相手だと言いたかったのだ。


「私の見立てでは問題なさそうだけど……一応、警戒はしておくわ」

「了解だよ、アル君」

(……これは、五分五分といった感じだな)


 自信満々な二人を見てそのような感想を浮かべたアルは小さく息をつく。

 その姿を見ていたリリーナは、アルから託された魔法装具をギュッと握ると静かに気合を満たす。

 舞台に立った両学園の代表者たちはそれぞれの持ち場に着くと、審判に準備完了の合図を送った。


「パーティ部門、二回戦第二試合――開始!」

「行くぜええええぇぇっ!」


 開始と同時に笑みを浮かべた男子生徒が突っ込んでくる。他の学園の戦い方とは違い、障害物は残ったままだ。

 意表をついたつもりだろうが、シエラとジャミールの反応は素早かった。

 シエラがナイフを、ジャミールが剣型の魔法装具グラムを抜いて迎撃態勢を取る。

 しかし、そこへ降り注いだのは五人からなる後衛の魔法弾幕だった。

 前衛が一人というのは完全なる予想外と、後衛五人からなる魔法弾幕の多さに、二人は一瞬だが視線をそちらへと向けてしまう。


「隙ありだああああっ!」

「「――!!」」


 ユージュラッド魔法学園の後衛であるフレイア、中衛のラーミアも必死になって魔法弾幕を撃ち落としているが、手が足りなさすぎる。

 前衛の男子生徒が小柄なシエラに至近距離から魔法を放つ――その時だった。


「ウッドロープ」

「うおぉっ!?」

「ツリースパイラル」

「「「「「えっ!?」」」」」


 足首を捕まえたウッドロープに驚愕した笑みの男子生徒と、魔法弾幕を防がれた後衛の五人。

 驚きはワーグナー魔法学園の面々だけではなく、ユージュラッド魔法学園の面々も同じだった。

 その中でこの魔法を発動させた張本人は涼しい顔で次の魔法を発動させる。


――ウッドゲート」


 舞台を破壊しながら伸びてきたのは、ウッドロープよりも太く長い蔦である。

 その蔦が渦を巻くようにして笑みの男子生徒を飲み込むと、次にシエラとジャミールを飲み込んでしまう。

 額に汗をにじませながら、立て続けに魔法を発動する。


――ウッドゴーレム」


 舞台の中央、そこに50センチほどの小さな木の人形が十体ほど顕現する。

 十体の人形の殺傷能力はとても低く、魔法を使うこともない。言ってみれば、本当にただの人形だと言えるだろう。

 しかし、数が多ければ話は別だ。

 襲い掛かられると振り払わなければならないし、魔法の照準も狂ってしまう。そもそも、魔法を使うには集中力も大事になるので邪魔以外の何ものでもない。

 ワーグナー魔法学園の後衛五人に前衛のような身のこなしはできないし、小さな木の人形とはいえ対処法を知らなければ脅威に映るものだ。

 そして、彼らは対処法を知らなかった。


「な、なんだよ、これは!」

「嫌よ、来ないで!」

「撃て! ぶっ放せ!」

「間に合わないわよ!」

「うわ、うわああああっ!」


 ただの体当たりなのだが、たったそれだけで尻もちをつき、カタカタと奥歯を鳴らし、木の人形を恐怖の対象として見てしまう。

 その様子を後方から見ていたアルは、柄に伸ばした手を下ろしてリリーナに視線を送る。


(本当に、逞しくなったものだ)

「フレイア! ラーミア! 後衛を攻撃だ!」

「「――! 了解!」」


 リリーナに感嘆の思いを持ちつつ、フレイアとラーミアに指示を飛ばすアル。

 ハッとした二人はお互いに範囲魔法を放ち戦意喪失した後衛の五人の意識を飛ばした。

 その直後、ウッドゲートが作り出した蔦がシュルシュルと音を立てて三人を飲み込んだ大きな筒を解いていく。


「驚いたわね」

「さすがだよ、リリーナちゃん」


 現れたのはリリーナに笑みを送るシエラとジャミール。その足元には、一対二の状況で敗北したワーグナー魔法学園の前衛の男子生徒。

 こうして、ユージュラッド魔法学園の勝利が決まったのだった。

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