第298話:パーティ部門・二日目②
控え室に戻って来ると、すぐにシエラとジャミールがリリーナに歩み寄ってきた。
「助かったわ、リリーナ」
「リリーナちゃん、いつの間にあんな凄い魔法が使えるようになったんだい?」
「えっと、アル様の訓練とは別に、自主練習をしていたんです。この魔法装具も上手く使いこなさないといけませんし」
リリーナはすでに魔法装具師であるベル謹製の魔法装具を使いこなしていると言っていいだろう。
しかし、リリーナ本人は納得していない。それは、自分の心の属性がレベル2だということが関係していた。
「木属性の魔法装具、それもベル様謹製のものです。レベル2しか持たない私が使うのも憚られるものですが、それを託されたのならもっと上手く使いこなさなければなりませんから」
「でも、十分すぎるくらいに魔法はスムーズだったわよ?」
「レベル3の魔法を連続で発動していたしね〜」
「……リリーナは、レベル4の魔法を使いたいと思っているのか?」
煮え切らない様子のリリーナを見て、アルはそんなことを口にする。
しかし、それはベル謹製の魔法装具であっても難しいことをアルは知っている。
そもそも、魔法装具は属性レベルを上げる事ができると言われているが、それは一つが限界だと言われている。
アルのように卓越した魔力操作ができれば話は変わってくるが、こちらの方が異常だと言えるかもしれない。
リリーナは、その異常であるアルの所業に挑戦しようとしているのだ。
「アル様の期待に応えるためには、それくらいできなければならないと思っています」
「リリーナは魔法師隊を目指すつもりなの?」
「そ、そのような事は考えておりません! ただ、魔法師として精進しようと思っているだけですよ!」
シエラの指摘に慌てて否定を口にしたリリーナだが、この疑問は当然のものだ。
魔法操作によってレベル以上の魔法を発動させるという事は異常であり、できる者と言えば国の魔法師隊に所属する者でも数えるほどしかいないのだから。
「リリーナちゃんの魔力操作はとてもスムーズだし、このまま精進すれば本当に目指せるんじゃないかな?」
「でも、お二人の方が強いではないですか」
「私たちの強さはあくまでも冒険者を目指すための強さよ。剣もそうだし、ナイフだってそうよ」
「そういう事。魔法という一点のみを見れば、僕やシエラちゃんよりもリリーナちゃんの方が卓越しているって事だよ~」
「そ、そんな事は……」
「リリーナ。二人の言葉は本音だと思うぞ。だから、素直に称賛を受け止めておけ」
気恥ずかしそうにしているリリーナに対して、アルがそのように声を掛ける。
どうしてそのような声掛けをしたかといえば、リリーナの魔力操作はアルも認めるところだ。
しかし、リリーナ自身が自分を下に見る癖がついているのか、あまり自信をもって行動しているように見えない。
パーティとして活動するにしてもそうだが、アルはリリーナの友人として自信をもって行動して欲しいと思っていた。
「……あ、ありがとうございます」
「リリーナは頑張っている。それは俺だけじゃなく、ここにいるみんなが知っているよ」
その言葉にリリーナは控え室にいる全員の顔を見る。
全員が笑みを浮かべながら頷き、シエラとジャミールは肩をポンと叩いてくれた。
「……はい!」
「うんうん」
「でも、まだまだレベル4の魔法には到底及ばないので、精進は忘れません! もっと頑張りたいと思います!」
「無理は禁物だからな!」
今日の試合がリリーナにとっての分岐点になってくれたのではないか、そんな事をアルは考えていた。
「それじゃあ、観客席に行くか」
次の試合はラグナリオン魔法学園の試合となる。
舞台が結構な損傷を負ったので開始には時間が掛かるだろうが、それでも席の確保は必須だ。
「そういえば、弟君」
「どうしましたか?」
「カーザリア魔法学園の試合は観ていないけど、いいのかしら?」
「言われてみたらそうだね。どうなの、アル君?」
廊下を歩きながらフレイアとラーミアに問われ、アルはピタリと足を止めた。
そして、ゆっくりと振り返って一言――
「……忘れてました」
ラグナリオン魔法学園、ひいてはシンの事が気になり過ぎてヴォックスの事をすっかり忘れていたのだ。
「……まあ、それがアルよね」
「……明日は観に行く?」
「……そ、そうしましょう」
レイリアからの応援もあったのだ。
まさかの敗北は何が起きてもあってはならない。
自分の失態に頭を掻きながら、アルたちは観客席へ向かったのだった。
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