第296話:パーティ部門・一日目④

 ――結果として、一回戦第五試合はラグナリオン魔法学園の圧勝となった。

 試合時間は一分も掛からず、まさにあっという間の結末だった。

 アリブラッダ魔法学園も他の学園の例に漏れることなく、障害物を魔法で吹き飛ばしつつ強力な魔法を放とうと、開始の合図と同時に準備に取り掛かる。

 だが、アリブラッダ魔法学園の魔法が放たれるよりも早く、ラグナリオン魔法学園の前衛が前進。

 ユージュラッド魔法学園以外で足を使う相手がいると思わなかったのか、対処が遅れてしまう。

 それが試合の時間を一気に短くしてしまった。

 至近距離から魔法を放たれ、一撃で前衛を失ったアリブラッダ魔法学園は総崩れを起こし、結果は一分も持たなかったという事だ。


「正直、参考にならなかったな」


 会場から宿屋へ移動しながら、アルはそんなことをぼやいていた。

 ユージュラッド魔法学園とリクルッド魔法学園の試合と似たようなものだが、六人中三人しか動いていなかったのだ。

 動いたのは前衛の三人、男子が二人で女子が一人。

 黒髪で長身のルグ・ズィッド。

 茶髪で眼鏡のフォン・フェイグン。

 赤髪で小柄のミラ・フリスク。

 身のこなしから武術の心得もあるとアルは見ているが、今回使われたのは魔法のみだった。

 ただ、アルの見立てではシンも前衛のはずで、前衛四人に後衛二人、もしくは今回前衛をしていた誰かが後衛に下がる可能性もあると考える。

 ルグが土属性、フォンが水属性、ミラが火属性の魔法を使い、試合を完全に掌握したのだ。


「まあ、一回戦だから仕方ないわね」

「そうそう。手の内をさらけ出したアル君が悪いよね~」


 シエラもジャミールも特に気にした様子はなく、むしろ個人部門決勝戦で多くの手の内を晒したアルが悪いのだと言ってきた。


「俺だってあれだけの手の内をさらけ出すつもりはなかったんだが、手を抜くのはレイリアに失礼だと思ったんだよ。二人もその気持ちは分かるだろ?」

「……まあ」

「……確かにね~」


 アルの言葉に否定できなくなり、二人は渋々頷く。

 二人も追及するつもりはなかったので情報収集について話は終わり、もう一つの問題について取り上げることにした。


「……はぁ。いつまでついてくるつもりなんだ?」


 会場から外に出てずっと、アルたちをつけている気配があった。

 敵意はなく、あちらから仕掛けてくる様子もなかったのでほっといていたのだが、宿屋が近づいてきてもまだついてきているので、さすがに対処する必要が出てきてしまった。


「ど、どうするのですか、アル様?」

「……まあ、俺から声を掛けてみるさ」


 というわけで、アルは立ち止まると踵を返して路地裏につながる通路を見つめながら口を開いた。


「何か用があるのか――レイリア?」

「――! ……うん」


 アルの問い掛けに答えて出てきたのは、個人部門決勝戦で戦ったレイリアだった。


「それで、何の用だ?」

「……話を、したい」

「ここじゃダメなのか?」

「……うん」


 これが罠だという可能性もある。アルを誘い出してカーザリア魔法学園の生徒が襲い掛かるという。

 だが、レイリアの雰囲気からそれはないと判断したアルは、溜息をつきつつも話を聞くことにした。

 何故なら、レイリアはとても切羽詰まっているように見えたからだ。


「分かった」

「……いいの?」

「あぁ。というわけで、みんなは先に戻っていてくれ」

「護衛が必要じゃないかしら?」

「いいや、大丈夫だよ。それに、ヴォックスとかがいても俺には関係ないしな」

「まあ、それもそうだね~」


 シエラの提案を断ると、ジャミールは納得したように歩き出した。

 フレイアとラーミアも手を振って歩き出し、シエラはやや不満そうだったものの仕方ないといった感じで足を進める。


「アル様……」

「本当に大丈夫だから、心配するな」

「……分かりました。でも、気をつけてくださいね?」

「分かってるよ」


 最後まで心配そうに見つめていたリリーナには笑みを返す。

 リリーナも歩き出して二人になったところで、改めてレイリアに声を掛けた。


「さて、それで要件は?」

「……個人部門の決勝戦は、とても楽しかった。ありがとう」

「ん? あぁ、まあな。俺も楽しかったよ」

「……」

「……それだけじゃないんだろう?」

「……うん」

「……」

「……ヴォックスに、負けないで」

「負けると思うのか?」


 そこでレイリアは素直に首を横に振る。


「……頑張ってね」

「当然だ」

「……それじゃあ」

「ん? ……あ、あぁ、それじゃあ」


 そして、レイリアは去っていった。


「…………えっと、それだけ?」


 まさか戦った相手から応援されるとは思わなかったが、用事がそれだけだったことにも驚かされたアルなのだった。

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