第295話:パーティ部門・一日目③

 アルたちは試合を終えると、急ぎ観客席へと向かい次の試合に備えていた。

 というのも、一回戦第五試合はラグナリオン魔法学園の試合だからだ。

 パーティ部門ではアルを温存する事ができたものの、個人部門で多くの手札を晒してしまっている。

 ここで少しでもラグナリオン魔法学園の情報を手にしたいと考えていた。


「そういえば」


 席に着いたところでシエラがぼそりと口を開く。


「少しだけラグナリオン魔法学園の事を調べたんだけど、今回の代表者たちは全員が一年次の生徒らしいわよ?」

「全員が?」

「えぇ。学園で何があったのかまでは分らなかったけど、間違いないみたい」


 アルは個人部門でラグナリオン魔法学園の代表の一人であるアスカと対戦している。

 なるべく多くの手の内を晒そうと戦いを長引かせる動きをしており、役割を全うしたと言えるだろう。

 だが、それ以前に彼女の実力は高いものがあった。普通に戦っていてもある程度の手の内を晒す事になったはずだとアルは考えている。


「アスカの実力は、ラーミア先輩に近いものがあるはずです」

「となると、私たちの中では一番下ね」

「ちょっと! フレイア、酷くないかな!?」

「事実だもの。一年次のリリーナにも負けたんだからね?」

「それは……ぐ、ぐぬぬっ! 慰めてよ、リリーナちゃーん!」

「えっ! あの、私ですか!?」

「そこでリリーナに泣きつく辺り、やっぱり一番下ね」


 フレイアが嘆息しながらラーミアをいじっているが、アルとしてはアスカがラグナリオン魔法学園の中でどのレベルなのかという事が気になっている。


「他の三人の試合を見る事ができなかったのは痛かったな」

「残りの二人は一回戦で敗れたみたいですけど、全力を出しているとは思えなかったらしいです」

「リリーナ、見ていたのか?」


 まさかの情報を口にしたリリーナに驚きの声を掛けたアルだったが、首は横に振られた。


「いいえ。実は、ペリナ先生からの情報なんです」

「スプラウスト先生から?」

「はい。アル様がシン様を気になされていると知って、ラグナリオン魔法学園の試合を追い掛けていたようです。まさか、一回戦で負けるとは思わなかったみたいですが」

「という事は、アスカさんの方はアルと試合をする為に一回戦、二回戦を勝ち進んだという事ね」

「それだけの実力がないと、他の二人を負けさせるなんて強硬手段はとれないよね~」


 ジャミールの言う通り、アスカがアルと対戦したのは三回戦である。

 仮にアスカが一回戦や二回戦で負けてしまえば、自分たちがやりたかったことができなくなる。残りの二人がすでに敗退しているからだ。


「アスカなら勝てると信じて、自分たちは先に負けたってことか」

「なかなかの強硬手段だよね~」

「だからこそ、パーティ部門は厳しい戦いになる」


 ラグナリオン魔法学園は逆の山に入っている。対戦するとすれば決勝戦だ。

 だが、アルもシエラもジャミールも、決勝の相手はラグナリオン魔法学園だろうと確信していた。


「あんたたち三人にだけ良い格好はさせないわよ?」

「先輩にも活躍の場所を残しておく事!」

「わ、私も頑張ります!」


 フレイアとラーミアが後輩に負けじと声をあげ、リリーナも自分にできる事をやろうと力を込める。


「もちろんです。みんな、頼りにしていますよ」


 アルがそう口にしたところ、第五試合に出場する代表者が舞台に姿を現した。

 ラグナリオン魔法学園の対戦相手は、南の辺境にあるアリブラッダ魔法学園。

 同じ辺境という事で情報はあまりなく、どのような攻防になるのかが期待される試合だと感じていた。


「……ったく、あいつは。試合前に何をしているんだ」


 そう口にしつつも、アルはこちらを見ながら手を振っているシンに手を振り返す。


「アルとあの人って、いつからそこまで仲良くなったのかしら?」

「いや、手を振られたから振り返しただけだが?」

「でも、相手からしたら素晴らしい挑発行為になったよね~」

「えっ?」


 そう言われてアルはアリブラッダ魔法学園の方へ視線を向ける。

 すると、もの凄い形相でこちらを見ている色黒の生徒と目が合ってしまった。


「……いや、俺を睨みつけるのはお門違いだろう」

「アル様って、天然なんですね」

「えぇっ!? リリーナまで!!」


 まさかの味方なしの状況に、アルは溜息をつきながら試合にだけ集中する事に決めたのだった。

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