第282話:個人部門・準決勝③
だが、魔法剣と言ってもアルディソードに魔法を沿わせているわけではない。
オークロードとの戦闘で顕現させた、魔力自体を剣の形に形成した魔法剣――ウインドソードだ。
「くくくっ、出したな、過去の産物を!」
ノートンがそう口にした直後、観客席からはユージュラッド魔法学園の代表選考の時と同じようにブーイングの嵐が巻き起こる。
だが、その規模は桁違いに大きい。
観客席には倍以上の数がおり、声の大きさはさらに大きなものになっている。
「あぁ、出したよ。だが……それがどうした?」
しかし、アルは周囲のブーイングを全く気にしていなかった。
どれほどの規模のブーイングであれ、どれだけ酷い言葉をぶつけられようとも、アルは全く気にならない。
それが死線を潜り抜けてきた剣士であれば、なおのことだ。
「突っ込め、ツインゴーレム!」
ただでさえ粉々になっている舞台をツインゴーレムが蹴りつけると、小さなクレーターが出来上がりさらなる破壊が目の前に広がる。
突っ込んできたツインゴーレムの速度は、その巨体を考えると想像できない速さだったが、アルには予測済みである。
むしろ、ツインゴーレム以上に強烈な迫力を持っている相手と、アルは対峙済みだ。
「その程度なら、デーモンナイトの方が恐ろしかったな!」
「デ、デーモンナイトだと!? 戯言を!」
ユージュラッド魔法学園が保有するダンジョンの九階層で見たイレギュラーな存在。
アルはツインゴーレムのことを、フェルモニアでもなく、オークロードでもなく、デーモンナイトに例えた。
ならば、この勝負に負けはない――かと思われた。
――ガキンッ!
「ちいっ! やはり、硬いか!」
「……く、くくくっ! あなたにツインゴーレムは倒せない! そのまま押し潰してやる!」
動きは読めても、攻撃が効かなければ倒せない。
ノートンが言ったように魔力切れを狙えないのであれば、逆にこちらの魔力が尽きてしまう。
魔力を纏わせる媒介を持たない今の魔法剣だと、自らの魔力を垂れ流しているのと同義なのだ。
「切れ味では敵わない。ならばアルディソードを……といきたいが、ここにはない」
そう、アルはアルディソードを持っていない。
普段は腰に下げているのだが、魔法競技会に際してはアイテムボックスに保管している。
一応、魔法と名の付く競技会なので遠慮したのだが、今回はそれが仇になってしまった。
「ほらほら、まだまだいくぞ!」
「回避は、問題ない」
四本腕からの苛烈な攻めを受けているのだが、アルの表情には十分な余裕が浮かんでいる。
振り抜かれるたびに風切り音が耳の側で鳴り響き、地面を打ち抜けば砂利が飛び散り、窪みが出来上がる。
「ならば、やることは一つだけだな。……はぁ。これでは、本当に剣士の名が泣けてくるぞ」
ツインゴーレムを斬る、そのつもりでウインドソードを顕現させたアルだったが、勝利のためにはと魔法剣を切り替える。
次に顕現させた魔法剣は――アイスソード。
「なんだ、凍りつかせるつもりか? だが、ツインゴーレムの怪力に通用するものか!」
「なら、試してやるさ!」
引きながら受け続けていたアルだったが、今度は自ら前に出て攻めに転じる。
一方のツインゴーレムも前に出ると、四本腕を広げてから即座に連打が放たれた。
受け流し、逸らせながら、魔力を注ぎ込んで腕を凍りつかせようと試みるアル。
ツインゴーレムは腕を動かし続けることで、完全に凍りつく前に張り付いた氷を剥がしてやろうという考えだ。
アルの魔力が尽きるのが先か、ツインゴーレムが凍りつくのが先か、四本腕のラッシュでそのまま押し切ってしまうのか。
「魔力切れなんて狙わないさ! 押し潰せ、ツインゴーレム!」
「お前、何か勘違いをしてないか?」
勝利を確信したかのようなノートンの言葉に、アルは不敵な笑みを浮かべながらそう口にする。
直後、ノートンの足元が大きく揺れ、緑色の物体が両手両足を縛り上げた。
「これは――ウッドロープだと!?」
「ツインゴーレムで決めようとばかり考えていたのが、お前の敗因だよ」
身動きが取れなくなったところへ、ゆっくりと最後のウッドロープが首の方へと巻き付いていく。
「ぐあぁっ! ぐぅぅ……やれぇ、ツイン、ゴーレム!」
「言っておくが、こっちはわざわざこいつに付き合っていただけだからな?」
「な、何を、言って――!」
一歩後退したアルだったが、その場でアイスソードを斬り上げる。
ただそれだけの行動だったのだが、ツインゴーレムの足元が一瞬にして凍りつくと、氷が徐々に足を、胴体を、四本腕を凍りつかせていく。
どれだけ体を動かそうとも、氷の浸食が止まることはない。
「俺は、いつでもツインゴーレムを凍らせることができたんだよ」
「……き、貴様ああああああああぁぁぁぁっ!!」
「終わりだよ、ノートン」
完全に凍りついたツインゴーレムが粉々に砕けるのと、ノートンが意識を飛ばしたのは、ほとんど同じタイミングになっていた。
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