第281話:個人部門・準決勝②

 舞台の中央で睨み合うアルとノートン。

 すでに戦闘準備は完了しており、開始の合図を待っている。


「準決勝第一試合──開始!」


 ノートンが最初に発動した魔法は、アルの足を奪う魔法だ。


「アースクエイク!」


 土属性レベル4魔法、アースクエイク。

 舞台が一瞬にして粉々となり、機動力を奪われる。


「あなたは足を使うようですが、それは魔法師の戦い方とは言いません!」

「だが、警戒すべきだと思ったんだな」

「僕は、負けられませんからね! アーススピア!」


 次いで放たれたアーススピアだが、地面から放たれるだけではなかった。


「横か!」

「それだけじゃないぞ!」


 地面を媒介にして発動されるはずのアーススピアが、四方八方から放たれる。

 崩れた舞台上では回避も難しい──と思っていたノートンだが、目の前では予想外の現実が繰り広げられた。


「これは、地面の破片を、媒介にしているのか!」

「くっ! 何故だ、何故躱すことができる!」


 アルの足捌きは、地面が砕けた程度で動きが落ちるものではなかった。

 足の角度を変え、指に加える力加減を変え、膝の角度を変えることで、足場の悪さを克服したのだ。

 アーススピアがどの方向から放たれるのか、アルは視界に収まるものだけではなく、風の動きを感覚で読み切ることで全ての攻撃を回避していた。


「ウォーターアロー」

「ちいっ! アースウォール!」


 一瞬の隙を突いて放たれたウォーターアローだが、ノートンは素早くアースウォールで防いでみせる。

 アースウォールの壁面からアーススピアが多方向に放たれると、アルは大きく飛び退いて距離を取った。


「くそっ! なら、これでどうだ──ウォーターホール!」

「うおっ!」


 ノートンはこれでもかとアルの足を封じに掛かる。

 しかし、アルはウォーターホールにも反応してみせた。


「これで……い、いない、だと?」


 アースウォールの後ろにいたノートンには見えていなかった。否、観客席から見ていたほとんどの客にもその姿は見えていなかった。


「──危なかったな」

「なあっ! よ、横だと!?」

「ファイアボール」

「アースアーマー!」


 完全なる不意打ち、そしてファイアボールは着弾した。

 だが、ノートンのアースアーマーはラーミアのそれとは異なっている。

 左腕だけがアースアーマーを纏っており、そこ以外は生身のままだった。


「一つ一つの魔法が、工夫されているみたいだな」

「これくらい当然のことだ!」


 魔法を生業にする者であれば、自らの魔法を研鑽し、工夫するのは当然のこと。

 だが、ノートンのそれは他の魔法師とは比べ物にならない緻密さを持っている。


「あなた如きに負けていては、あの人のお側にはいられないのだよ!」


 まるで何かに憑りつかれているかのような叫びと同時に、ノートンは自らの魔力を魔法装具に注ぎ込んでいく。それも、過度なほどに。


「これで、終わらせるぞ!」

「いいだろう。ならば、俺はお前が全てを注いだそれを打ち破り、倒してみせる」

「やってみるがいい! ツインゴーレム!」


 砕けた地面にノートンの魔力が干渉し、カタカタと砂利になった破片が揺れる。

 そのままノートンの目の前の地面が盛り上がり、人形のような姿を形成していく。

 その高さはどんどんと高くなり、最終的には3メートルもの高さにまで到達した。


「……なるほど、だからツインゴーレムか」


 ツインゴーレムの姿は、巨大な人型と言えば分かりやすいかもしれない――一部分を除いては。


「四本の腕か……厄介だな」

「あなたのお得意な過去の産物を持ち出しますか? ただ、それを持ち出したとしても、僕のツインゴーレムには敵わないでしょうがね!」

「大した自信だな」

「事実だからな。試してみるか?」


 じっくりとツインゴーレムを見つめながら、アルは素早く魔法を飛ばしてみた。


「シルフブレイド」


 魔力融合による風の刃は、並の剣よりも鋭い切れ味を持っている。

 しかし、ツインゴーレムの硬い装甲は傷一つ付けることができなかった。


「ちなみに、僕の魔力切れを願うのは意味がないよ。こいつは、一度解き放たれれば僕の魔力とは切り離される。そして、僕の命令を遂行するまでは止まることがない」

「そうか。その命令ってのは、俺を倒すことになるのか?」

「少し違うな。僕がツインゴーレムに下す命令は――あなたを殺せ、だよ! いけ、ツインゴーレム!」


 声帯を持たないツインゴーレムだが、その仕草から咆哮をあげているだろうことは一目瞭然だった。


「いいだろう。ならば、第二ラウンドといこうか!」


 シルフブレイドが効かない相手だと知ったアルは、周囲の目を気にすることなく魔法剣を発動させた。

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