第278話:個人部門・二日目④

 観客席にいるリリーナたちと合流するために、アルはその場でレオンたちとは別れた。

 そして、観客席に続く扉の前にはいつも通りの笑みを浮かべているリリーナたちの姿を見つける。


「すまない、遅くなった」

「お疲れ様です、アル様」

「……なあ、どうしてみんなは廊下に出ているんだ?」


 他の舞台ではまだ続いている試合がある。

 出迎えを優先させたという可能性もあったが、準決勝で当たるだろうノートンの試合もあるはずで、そこを見逃すような面々ではないはずだ。

 しかし、理由を聞けばユージュラッド魔法学園であった代表決定戦と似たようなものであり、レオンの懸念が的中した状況だった。


「多くの観客たちが、アルの戦い方に納得していなかったのよ」

「それで、僕たちにも出ていけだとか、文句を言われたってわけ」

「本当にムカつくよね! アルのあれはちゃんとした魔法だってのにー!」


 シエラ、ジャミール、ラーミアの順番で口を開く。


「まあ、アルはこれくらい慣れているんでしょう?」

「弟君は経験済みだもんねー」

「全く、俺の弟を何だと思っているのか」

「あはは。ガルボは弟思いだからねー」


 次にクルル、フレイア、ガルボ、フォルトが続く。


「まあ、いつものことですね」


 そして、全員の言葉に対してアルはいつものことだと、たった一言で答えてみせた。


「それで、これからどうするの?」

「ま、まさか、また冒険者ギルドに行くのですか?」

「「……冒険者ギルド?」」


 心配そうに口にしたリリーナの発言に反応したのは、シエラとジャミールだ。

 二人も将来的には冒険者になる予定なのだが、すでに冒険者登録をしているアルとは立場が異なる。

 しかし、早い段階で冒険者としての経験を積んでおきたいと思ってもいた。


「ちょっと、聞いてないんだけど、アル?」

「そうだよ、アル君」

「えっと、その、欲しい物があって、その資金集めに……な?」


 二人から詰め寄られてしまい、アルは徐々に後退していく。

 しかし、廊下の壁に追いつめられると、二人から同時に言われてしまう。


「「連れて行ってもらう!」」

「……お前、そんなことをしていたのか?」


 呆れ声を漏らしているのはガルボである。

 ユージュラッドではなく、まさかカーザリアで冒険者活動をしているとは思ってもいなかったので、当然ではあるが。


「欲しい物って……もしかして、あの剣かしら?」

「剣? アル、お前はアルディソードを持っているじゃないか」


 さらなる呆れ声に、アルも説明を余儀なくされる。


「いや、もしかしたら魔法が使えないような状況に陥る可能性もあるじゃないですか」

「いったいどんな状況だよ、それは」

「えっと……まあ、可能性の話、かな?」

「……それで、その剣ってのはいくらなんだ?」

「……30万ゼルド」

「即刻諦めろ!」


 値段を聞いたガルボは怒気が混じった声でそう告げる。

 しかし、アルは諦めることができずに、最後まで足掻いてみると口にした。


「カーザリアにいる間に溜めることができなかったら諦めますが、それまでは手を尽くしてみます!」

「お前、自分の立場が分かっているのか? ユージュラッド魔法学園の代表、それもトップとしてやって来ているんだぞ!」

「どちらも結果を出して見せます! 個人部門でも、パーティ部門でも!」


 睨み合うアルとガルボ。

 兄弟だからこうも言い合えるのかもしれないと、他の誰も口を挟もうとはしない。

 観客席からは大歓声が聞こえてくるが、二人にはどこ吹く風だ。


「……はぁ。もういい」

「……ガルボ兄上?」

「どうせ、止めても行くんだろう?」

「昨日もそうでしたー」

「……クルル、お前なぁ」

「クルル様もついていったではないですか! 私だって行きたかったのに!」

「「何い!?」」


 シエラとジャミールの視線が、今度はクルルへと向けられる。


「ちょっと、クルル! 聞いていないんだけど?」

「そうだよー。僕たちにも声を掛けて欲しかったなー」

「だって、二人はヘルミーナの試合を見るって言ってたじゃないのよ!」

「「……アールー?」」

「いや、すまない。二人が仕事のできる奴だって知ってたから、ついな」


 頭を掻いて苦笑いを浮かべているが、これ以上は言い訳もできないとアルは諦めた。諦めて――


「……一緒に、行くか?」

「「もちろん! 暇だったから!」」


 その様子を見ていた他の面々は、盛大にため息をつくのだった。

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