第275話:個人部門・二日目

 翌日、アルは個人部門の三回戦に挑んでいた。

 相手はラグナリオン魔法学園の一年次、青髪の少女でアスカ・リズナー。

 シンが在籍している学園ということで期待を膨らませての試合だったのだが、アルの期待に応えてくれる実力を示してくれた。


「ヘビーフォール!」

「なら、こっちも――!」

「アーススピア!」

「アースウォール!」


 アスカはヘビーフォールを囮にして視線を上に向かせ、地面からアーススピアで仕掛けてきた。

 ヘビーフォールに攻撃の意思を感じなかったアルは即座にアスカの思考を理解し、アーススピアを同じ土属性のアースウォールで防いで見せる。

 動きながら魔法を使うということが少ないと聞いていたアルだが、アスカは舞台上を縦横無尽に動き回っている。

 会場からは驚きと困惑の声が聞こえてくるが、戦っている二人には関係のないことだ。


「……残念だな」


 だからこそ、アルにとってはアスカの戦い方に落胆していた。


「まだまだ、手の内をさらけ出してもらうわよ!」


 アスカは自らの実力をしっかりと把握している。

 だからこそ、アルに勝てないことも自覚していた。


「ラグナリオン魔法学園は、シンが出場するパーティ部門で優勝を狙っているんですか?」

「くっ!」


 一瞬で間合いを詰めたアルがそう問いかけると、アスカは驚きの声を漏らしながらアースドームもアースウォールを連続発動して距離を取る。

 アルが口にした通り、アスカはこの試合で勝利を掴もうとはしていない。

 手の内をできるだけさらけ出させて、パーティ部門での対策を考えてもらおうと時間を掛ける戦い方をしていたのだ。

 魔法の使い方も上手く、魔力操作も緻密、戦略もしっかりと考えられている。

 真正面からぶつかったとしても、いい勝負ができたはずだと思っていた。


「なら、とっておきの一撃を見せてあげます。でも――これで終わりです!」

「耐えてみせるわ!」


 何かを感じ取ったのか、アスカはアースドームを前方に集中させるのと同時に、土壁の厚みを最大限にして防御に重点を置く。

 アルの技術があれば、裏をかいて接近戦を仕掛けることもできただろう。

 しかし、アルは自らの言葉を覆すつもりは毛頭なかった。


「その壁ごと、貫いてやろう――ファイアボルト!」


 オールブラックが突き出された先、火、水、木の三属性の魔力が融合されていき、一気に解き放たれる。

 加減をしたものの、その威力は貫通力も相まって着弾地点が黒く焦げ付き、アースドームの内側にいるアスカへ直撃していた。


「きゃああああああああっ!!」


 自動治癒によって死ぬことはない。

 しかし、痛覚は残されており、アスカはあまりの衝撃にその場で意識を失ってしまった。


「勝者――アル・ノワール!」


 驚きと困惑が交ざっていた声は一瞬の沈黙となり、直後に一気に爆発した。


「「「「うおおおおおおおおぉぉっ!!」」」」


 学生同士の試合である魔法競技会において、魔力融合は醍醐味の一つだ。

 魔力融合ができるだけで、その者は実力者であり、優勝候補の一角に名乗り出ることになる。

 アスカを倒すだけなら使う必要もなかったが、これでパーティ部門が面白くなればとあえて使用した。


「……」


 アルは客席の一ヶ所に視線を向けると、歓声を背にして舞台を後にした。


 ※※※※


 アルが視線を向けていた先で、一人の少年が笑みを浮かべていた。


「……ふふ、本当に面白いなぁ」


 舞台上にいたアルと目が合い、シンはそんな呟きを漏らす。


「しっかし、本当に規格外だな、あいつは」

「僕たちで勝てるでしょうか?」


 シンの右隣に座っていた黒髪のガタイの良い少年が驚きつつ、茶髪の眼鏡を掛けた少年が不安そうに口を開く。


「こっちにはシンがいるんだし、問題ないでしょー!」

「……他は、私たちに任せて」


 赤髪で小柄の少女が強きに言い切り、金髪のおっとりした少女が何度も頷く。


「うーん……まあ、アスカはしっかりと役目を果たしてくれたから、その期待に俺たちがしっかり応えないとな」


 笑みを浮かべながら、シンは左右に目を向けて口を開く。

 アルの試合が終わったからか、シンたちは席を立つと四回戦が始まるまで時間を潰すことにした。

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