第273話:リルレイとの会話

「スタンピードの大将首を討ち取ったあなたにお願いがあるの」

「……お願い、ですか?」


 先の言葉から、厄介事であることは間違いない。

 だが、アルとしてはこの話を聞く必要があると思っていた。


「……それは、強敵との戦いってことで、いいんですか?」

「あら、分かっているみたいね。戦闘狂って、間違いじゃなかったみたいね」

「なんですか、それは」


 言われていることに間違いはないのだが、自分で認めることはできずに否定を口にする。

 しかし、リルレイはそんなことお構いなしといった感じで笑みを浮かべ、そのまま話を続けた。


「スタンピード、というわけではないけれど、強力な魔獣が近辺をうろついていると冒険者から報告を受けているのよ」

「強力な魔獣、ですか? であれば、俺ではなくてここの冒険者、もしくは正規の兵が動くべきでは?」


 魔獣と戦いたい気持ちはあるが、それでも順序はしっかりと守る必要がある。

 外から来た者がいきなりここで問題になっている魔獣を狩ると、民は喜ぶだろうが冒険者や兵士はそうではない。

 手柄を横取りされたと思われかねないし、そうなれば今後、カーザリアでの冒険者活動がやり難くなる。

 冒険者を志すなら王都での活動は花形であり、活動がやり難くなるとなれば致命的である。

 将来的には国を出て、剣術が盛んな国へ向かい腕を磨くことを夢見ているので問題はないのだが、すぐにそうなるわけではない。

 だからこそ、外の冒険者である自分ではなく、ここの冒険者や兵士が動くべきだと口にした。


「それもそうなんだけどね。すでに動いてこれだから、困っているのよ」


 しかし、アルの考えは杞憂だったようだ。


「Aランク冒険者を当ててみたけど、返り討ち。辛くも逃げ帰って情報を得られたので、その情報を共有して正規兵が送られたのよ。実力的にはAランク冒険者よりも格段に上だった。だけど……」

「正規兵も、返り討ちにされたんですね」

「えぇ。それも、六名編成の正規兵がね」


 アルはしばらく考える。

 ならば動いてもいいかとも思うが、それを許すペリナではないだろう。

 アルがカーザリアにいるのは、魔法競技会に参加するためだ。

 学生という本分を脇に追いやり、魔獣討伐に勤しむとなれば、非難を浴びても仕方がない。


「……俺が、魔法競技会に参加するためにカーザリアへ来ていることは知っていますか?」

「知っているわ」

「なら、俺が考えていることも分かりますか?」

「うーん、なんとなくはね」


 ならば、話は早いとアルは一つの提案を口にした。


「俺は個人部門とパーティ部門の二つに参加します。なので、今開催されている個人部門が終わったとしても、すぐには自由に動けません」

「えぇ……それで?」

「だから、魔法競技会の全日程が終了し次第に動く、であれば」

「うふふ、そう言うと思っていたわ。こちらはそれでも構わないから、お願いできないかしら?」

「もちろん、それまでにそちらの冒険者や正規兵で片が付けば一番ですけど」


 良い落としどころを見つけたと、アルは思っていた。

 しかし、リルレイとしては元からここへ落とし込むつもりだったので予定通り。

 そもそも、リルレイは冒険者ギルドのギルドマスターである。

 アルがカーザリアにやってくる以前から、高ランクの冒険者に問題の魔獣には手を出さないよう伝えており、被害が無駄に出ないよう努めていた。

 低ランクの冒険者はAランク冒険者が返り討ちに遭っている時点で手を出そうとは思わない。

 被害に遭うとしたら、自分の実力を把握できていない無能だけだろう。

 なので、アルが最後に口にした魔法競技会が終了するまでに片が付く、ということにはならないのだ。


「では、そういうことでよろしくお願いします。他にも依頼を受けていかれますか?」

「いえ、今日はもう帰ります。早く片が付くといいですね」

「……えぇ、そうね」


 そんなことにはならないと分かっていても、リルレイはそうと告げずにアルを見送った。


「……ジラージが言うには、剣術を使うらしいけど、本当なのかしら?」


 見た目には剣を持っているようには見えていなかったアル。

 カーザリアに戻る前にアイテムボックスに入れており、街の中ではアルディソードを持たないようにしているのだ。

 期待半分、疑い半分といった感じで、リルレイはアルの背中が冒険者ギルドから見えなくなるまで見つめていたのだった。

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