第270話:アルの企み③

 アルが受けた依頼は三つ。

 一つ目がホーンマウス三匹の討伐。

 二つ目がグリーンバード三匹の討伐。

 三つ目がブルファング二匹の討伐。

 Fランクということもあり、どの魔獣もFランク相当の実力しか持っていない。

 冒険者を無駄に死なせるわけにはいかないという冒険者ギルド側の配慮なのだが、アルとしては儲けが少ない分、剣を購入する資金調達としてはやや不満だった。


「ふっ!」


 カーザリアを出てから一時間もしないうちに一つ目の依頼を達成しており、討伐証明を確保している。

 それ以降もホーンマウスは現れたが、そこはクルルが張り切って倒していた。


「どうだ、余裕だろう?」

「この程度の魔獣なら、何とかね」

「何とかも何も、スタンピードではもっとランクの高い魔獣を倒しているじゃないか」


 スタンピードではランクの高い低いお構いなく、魔獣が押し寄せてきた。

 それでも、大半がDランク以上の実力を持っていた魔獣なので、クルルがFランク相当の魔獣に苦戦するはずがないのだ。


「それにしても、アルはどうして魔獣がいる場所が分かるの?」

「気配を探っているからな」

「……平民には分からない感覚ってことね」

「平民とか貴族は関係ないよ。冒険者を目指すならこれくらいできるって。シエラやジャミールもできるからな」


 事実、名前を挙げた二人は気配を察知して相手の動きを読むこともできる。

 実際に手合わせをしているアルだから分かることなのだが、クルルからするとさっぱり分からない世界の話だった。


「これからもダンジョンに潜るなら、ちょっとは練習しておいた方がいいぞ?」

「……そっか。それもそうよね。アルが卒業したら、私とリリーナは、アル抜きでダンジョンに潜ることになるんだもんね」

「俺が、卒業?」


 急にどうしてそうなったのかと疑問を口にしたアルだったが、クルルからすると当然の答えだった。


「最初のパーティ訓練で七階層に到達して、次にペリナ先生と一緒だったとはいえ一五階層に到達。魔法競技会の代表選出トーナメントでは上級生を圧倒して優勝。さらに、みんなが知っていることで言えばスタンピードでSランク相当のフェルモニアを単独討伐よ? これだけの実績があって、早期卒業を考えない人はいないでしょ?」


 学園側が知らないことでいえば、氷雷山においてオークロードを討伐している実績もある、とクルルは語った。


「……ま、まあ、どちらにしても、三年次まではいるだろうから、それまでに覚えればいいんじゃないか?」


 そこまで言われえると、アルも三年次が終われば卒業するかもしれないと思い、そう口にすることしかできなかった。


「その時はエルクたちのパーティに入れてもらおうかしら?」

「二人で潜るよりは断然、安全だからな」


 卒業してしまえば、以降は学園に関わることはできない。

 アルとしてはパーティを組み、学園でも良くしてもらっている二人のことを放り出すことになるのは心が痛む。

 ならばどうすればいいのかと考えた時、一つの答えに行きついた。


「……それに、学園にいる間は、俺にできることは全部やってやるよ」

「その言葉に二言はないかしら?」

「あぁ。指導だって模擬戦だって、なんなら本気で戦って鍛えるのもありだぞ?」


 自分がいなくとも、ユージュラッド魔法学園のダンジョンで下層まで行ける実力を付けさせることが、アルが出した答えだった。


「最後のは遠慮するけど、鍛えてもらえるならありがたいかな。良い成績を残せそうだしね」

「最善を尽くすよ」


 快活に笑うクルルに、アルは肩を竦めながら返事をする。

 そして、魔獣の気配がある場所まで足を進めると、そこには討伐対象の一つであるグリーンバードが群れを成していた。


「火属性で焼かれるわけにはいかないから、あれは俺が倒すぞ?」

「当然でしょうに。私を何だと思っているのよ?」


 そんな軽口を叩きながら、アルはウォーターアローを複数顕現させて放ち、一度に五匹のグリーンバードを仕留めてしまう。

 突然の襲撃に、残りのグリーンバードが逃げ出そうとしたところを見て、クルルが叫んだ。


「残りは私がやってもいいわよね!」

「任せる」


 隠れていた茂みから嬉々として飛び出したクルルは、フレイムダンスを発動させる。

 グリーンバードの進行方向に炎が顕現し逃げ道を遮る。

 進路を変えた直後、待っていましたと言わんばかりにクルルが二つ目の魔法を放った。


「ファイアボール!」


 威力が小さく制御されたファイアボールは、いくつか外れたものの、アルよりも多い六匹を仕留めることに成功していた。


「どうよ!」

「……お見事だ」


 勝負をしているわけではないが、競うことが好きなクルルを立てる。

 そのおかげもあってか、クルルは親指を立ててアルに満面の笑みを浮かべていた。

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