第267話:個人部門③

 二回戦が始まった。

 ここからは一度に二試合が行われる。

 組み合わせ的に、アルがヘルミーナの試合を見ることはできないが、ジャミールが張り切って見ておくと言ってくれた。


「それなら、私も見に行くわ」

「えっ! ……いや、僕一人で大丈夫だよー?」

「……サボるつもり、でしょ?」


 シエラの指摘に、ジャミールは遠くに視線を向けてしまう。


「……本当に頼みますね、ジャミール先輩?」

「あー、いやー、アル君なら、見なくても大丈夫じゃないかな?」

「油断は禁物。仕方ないから私も行くのよ、ジャミール先輩?」

「……はぁ。分かったよ」


 シエラの言葉には強烈な圧があり、ジャミールも仕方なく従っている。


「……ねえ、二人ってお似合いじゃない?」

「……ど、どうなんでしょうか?」


 クルルがリリーナにそんなことを呟いていると、シエラの鋭い視線が二人を射抜く。


「聞こえてるわよ?」

「「ご、ごめんなさああああい!!」」

「……お前たち、何をやってるんだ?」


 アルは溜息をつきながらそう言うと、ヘルミーナの試合観戦を二人にお願いした。


「さて、それじゃあ俺も行くとするか」

「頑張ってくださいね、アル様!」

「アルなら問題ないでしょうけどね!」

「少しは手応えがあるといいんだけどな」


 肩を竦めながら歩き出したアル。


「……そういえば、父上たちや兄上たちはどこで観ているんだろうな」


 試合が始まってから、ガルボもそうだがキリアンにも会っていない。

 レオンに関してはスタンピードのこともあったので、王城で説明を求められている可能性もあると考えていた。


「まあ、今日は無理でも明日以降は観てくれるかもしれないな」


 二回戦も問題なく勝ち進めると考えて、アルは控え室で試合開始を待つことにした。


 二回戦第一試合が終了し、第二試合に出場する選手の呼び込みが始まる。

 アルはベンチから立ち上がると、屈伸を行なってから舞台へと向かう。

 対戦相手はすでに舞台上で待っており、何やらキラキラした感じのイケメンが格好をつけて立っていた。


「やあ! 君が僕の対戦相手なんだね!」

「……あぁ」

「う〜ん! 実に素晴らしい!」

「……何が?」


 髪をかき上げる仕草もどこか芝居掛かった感じで、アルはどう対応したらいいのか困ってしまう。


「君が! 僕に! 倒されるところを観客の皆さんにお見せしないといけないだなんて! ……実に素晴らしいじゃないか!」

「……えっと、まあ、楽しみましょうか」

「そうしてくれたまえ! 僕が君を倒すまではね!」


 ウインクをしながら言うことではないと思いつつ、アルは腰からオールブラックを引き抜く。

 そして、対戦相手も魔法装具を引き抜いたのだが、無駄に豪奢な飾りが施されており、アルは嫌な感情を全面に顔に出してしまった。


「……それ、意味があるのか?」

「見た目の美しさも大事なんだよ! はっははー!」

「……もう、いいや」


 そして、審判から試合開始の合図が響いた。


「さあ! 食らいたまえ! 僕の素晴らしい魔法を――うおあっ!」


 無駄に長いセリフの間に、アルはさっさと魔法を完成させていた。

 放たれたファイアボールは確実に対戦相手に着弾した――しかし。


「……ふぅー。あ、危ないじゃないか!」

「……はあ? 当たったよな?」


 防いだのが当たり前のように声をあげる対戦相手とは異なり、アルはどうして無傷なのか疑問を強く感じている。

 普通ならばその秘密をバラさないのがセオリーなのだが、対戦相手にはそんなことどうでも良かった。


「はっははー! 僕が身につけているこのマント! これには、対魔法防御の効果が付与されているんだよ!」

「……それ、言っていいのか?」

「構うもんか! これさえあれば、どんな魔法も打ち消すことが可能! 僕の勝利は確実なのさ!」

「いや、ウインクされても」


 溜息をつきながら呆れ果てているアルだが、実際に対魔法防御の付与は魔法競技会では驚異的な防御力を見せている。

 二回戦の対戦相手だけではなく、これからの相手も使ってくる可能性は高いだろう。

 ならば、その対処法を今回で見極めるのも必要かもしれないとアルは考えた。


「なら、色々と試させてもらおうか」

「はっははー! ドーンと来なさい!」

「それじゃあ遠慮なく――フレイムダンス」


 アルが選択した魔法はフレイムダンス。

 広範囲魔法なのだが、威力はそこまで高くはなく、一人を相手に使うことはほとんどない。

 なぜアルがこの魔法を選択したのか、それは――


「全く効かないぞー? 効かない……ん?」

「どうだ? 別の意味で効いてきただろ?」

「……あ、熱い! 熱いぞ、どうしてだ!?」


 フレイムダンス自体は防いでいる対魔法防御だが、魔法から発せられる熱波を防ぐことはできなかった。

 ファイアボールは単発であり、放たれる熱波も一瞬だからすぐに周囲に溶け込んでしまったのだろう。

 しかし、フレイムダンスは長い時間でその場に留まり、攻撃を続けている。

 熱波もどうように長い時間放たれ続け、小さいながらも皮膚を焼き、熱を生み出し続けた。


「ならば、ヘビーフォール!」

「ヘビーフォール」

「んなあ! 二属性同時発動だと!?」


 会場がざわついた。

 しかし、アルは気にすることもなく発動されたヘビーフォールの支配を奪い取り、舞台外に落としてしまう。


「……はぁ……はぁ……あ、熱い……こ、降参だよ~!」


 それから一分と経たずして、対戦相手は降参を宣言し、アルの勝利が確定したのだった。

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