第265話:個人部門

 そして、その日から個人部門が開始された。

 参加学園は二十、参加人数六十名。

 四名がシードとして二回戦からだが、こちらは去年の成績が加味されるのでユージュラッド魔法学園への割り当てはない。

 しかし、アルはトーナメント表を見て満足気に頷いていた。


(こっちの方が戦えるからな)


 相手の実力はどうであれ、戦えることに変わりはない。

 だが、トーナメント表を眺めながら一つの失敗に気づいた。


「……相手の名前、聞いてなかったなぁ」


 とは言っても、話をする機会は一度もなかった。

 ラグナリオン学園の金髪の少年と、カーザリア魔法学園の銀髪の少女。

 個人戦に参加するかは不明だが、名前が分かれば探すこともできただろう。


「リリーナは、他学園の生徒について知っているか?」

「すみません、アル様。私もそこまでは詳しくないんです」

「先輩たちは?」


 アルは視線を三年次と四年次の三名に視線を向けるが、首を横に振った。


「そうか」

「もしかして、金髪と銀髪の子?」

「あぁ。シエラにも分かったか?」

「えぇ。あの雰囲気は……アルと同等じゃないかしら」


 そんなシエラの言葉に、その場にいた全員が驚きの表情を浮かべた。


「アル様と同等って……」

「うわー、怖いねー」

「これは、貴族派の二人は死んだねー」

「アル君が三人! ヤバいねこれは!」


 リリーナ、ジャミール、フレイア、ラーミアが順に口にする。


「……みんな、俺のことを何だと思っているんだ?」

「「「「「規格外」」」」」

「……えっと、そうですか」


 溜息をつきながらトーナメント表を離れようとしたのだが、そこへ予想外の人物から声が掛けられた。


「やあ。開会式の時に、目が合っていたかな?」

「……ちょうどよかった。あなたの名前を伺いたかったんです」

「ラグナリオン魔法学園一年次、シン・ラーイナック」

「ユージュラッド魔法学園一年次、アル・ノワール」


 お互いに自己紹介を終えると、しばらくは視線を交えていたが――


「……ふふ」

「……これは、手強いな」


 シンが笑い、アルが苦笑する。

 一連のやり取りを見ていたリリーナたちはきょとんとしているが、アルとシンは二人だけで感じるものがあったようだ。


「ラーイナックは個人部門に出るのか?」

「シンでいいよ。俺は出ない。パーティ部門の方さ」

「俺のことはアルで。そうか、出ないのか……それじゃあ、パーティ部門で楽しむとしよう」

「アルは両方に出るのか?」

「あぁ。だから、もう一人の方の名前も聞いておきたかったんだが……分からないよな?」


 カーザリア魔法学園の銀髪の少女について、シンも視線を向けていたのだから何かしら情報がないかと、期待していないものの聞いてみた。


「銀髪の子だよね? カーザリア魔法学園の」

「知っているのか?」

「あぁ。彼女は一年次のレイリア・アーゲナス。個人部門に出るはずだよ」


 そう言われて再びトーナメント表に視線を向ける。


「……当たるなら、決勝戦か」


 カーザリア魔法学園の個人部門代表者は、ノートン、ヘルミーナ、そしてレイリア。

 決勝に勝ちあがるには、同じ山にいるノートンとヘルミーナを倒さなければならない。


「レイリア・アーゲナスだな。……助かったよ、シン」

「いいんだ。俺もアルと話をしてみたかったからな。……予想通りの人物みたいだし」

「そうか?」

「あぁ。戦闘狂、なんだろ?」


 ニヤリと笑ったシンを見て、アルも笑い返す。

 類は友を呼ぶ、とはこのことだろう。

 それは当の本人たちだけではなく、リリーナたちも同様に感じていた。


「ということは、そのレイリアって子もそうなのか?」

「それは分からないな。俺は名前を知っていても、性格までは分からない」

「俺のことも、そうだったはずだろう?」

「相対して、話をしてみたから、もう違うだろう?」

「……だな」

「いやいや、だな。じゃないでしょうに」


 フレイアが呆れ声をあげたところで、二人は顔を見合わせて苦笑を浮かべた。


「友人たちと一緒のところ、失礼したね」

「いいや、本当に助かったよ」

「……次は、パーティ部門での試合で」

「あぁ」


 シンはそう口にした後、その場を去っていった。


「……シン・ラーイナックか。これは、個人部門もパーティ部門も、楽しいことが起こりそうだな」


 アルにとっては朗報かもしれないが、他のパーティ部門に参加する面々からすると、最悪の情報になったのだった。

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