第264話:魔法競技会開催

 ――翌日、魔法競技会参加者は会場に集合していた。

 各学園で代表者数は異なっており、列に差ができている。

 多いところでは九名、少ないところだと六名という最低限必要な人数のところもある。

 これは、パーティ部門で六名は必ず必要だからだ。


「……相当、自信があるんだろうな」

「どうしたのですか、アル様?」

「あっちの学園さ。六名しかいないだろう?」


 パーティ部門に全員参加し、そのうち三名は個人部門にも参加することになる。

 少数精鋭と言えば聞こえはいいが、魔法競技会は個人部門から行われる。

 自動治癒が施されるとはいえ、イレギュラーが絶対にないとは言い切れない。

 そうなると、パーティ部門を棄権するしかなくなる。


「……まあ、それだけの実力を持っている、かな」


 アルは六名の代表者の内、先頭に立つ金髪の少年を見つめる。

 そして、視線に気づいたのか金髪の少年が振り返り、アルと目が合った。


「……」

「……」


 ニコリと微笑み会釈してきたので、アルも同様に返す。


「……ラグナリオン魔法学園か」


 ユージュラッドが西の辺境にある都市であれば、ラグナリオンは東の辺境にある都市だ。

 本来であればほとんど関わることのない二つの都市だが、魔法競技会という全学園が集うこの日に限り交わる。

 そして、アルは金髪の少年が、今年の競技会で一番の強敵になるだろうと感じた――だが。


「「――!!」」


 目を合わせていた二人が、同時に別の方向へ視線を向ける。

 その列は最大の九名であり、先頭にはヴォックスが立っている。

 カーザリア魔法学園だが、二人が見ているのはヴォックスではない。

 見ている先は、列の最後尾。


「……ふふ」


 そこにいたのは、微笑んでいる銀髪の少女。

 傍から見れば美しいだけの普通の少女なのだが、発せられている雰囲気は本物の実力者にしか感じられないもの。


「……面白いな」


 西と東と中央。

 同じ時代に生まれ落ちた天才同士が衝突するのは、間もなくである。


 開会宣言は、国王であるラヴァール王だった。

 会場の舞台に上がったラヴァール王の後ろには、第一王子であるランドルフ・カーザリアともう一人、漆黒のローブを纏った長身痩躯な初老の男性。

 その雰囲気は学生とは当然違い、後方に控えている他の大人たちとも異なる。

 初老の男性が放つのは、圧倒的強者の雰囲気。


「――今年もこの日がやって来た! カーザリアの未来を担う子供たちが競い、高め合うこの日が!」


 拡声の魔法があるにもかかわらず、ラヴァール王は自らの声で語り続ける。


「君たちは各学園を代表して集まってきた精鋭たちである! しかし、学園内では知り得ない実力者は数知れない! ならば、ここで競い、戦い、我が身の糧として、さらなる実力をつけるが良いぞ!」

「「「「「おおおおおおおおぉぉっ!!」」」」」


 多くの学生が歓喜と興奮の声をあげる中、アルは声をあげることはせずとも気持ちを高ぶらせていた。

 少なくとも二人は強敵が存在している。

 そして、今の自分では越えられない存在を見つけることもできた。


「……ん?」

「……」

「……ふふ」


 初老の男性と目が合い、そして笑った。

 ラヴァール王が下がると、合わせてランドルフと初老の男性も下がっていく。

 その中で、ランドルフとも目が合ったアルは苦笑を浮かべていた。


 ――ラヴァール王は裏手に下がると、ランドルフから声を掛けられていた。


「父上、アルと話をしたんでしょう? どうでしたか?」

「突然だな、ランディ。だがまあ……面白い人物であることに間違いはないだろうな」

「でしょう! キリアンもそうだったけど、ノワール家には面白い人材が多いですよ!」


 盛り上がっているランドルフから視線を外したラヴァール王は、初老の男性に声を掛けた。


「お前はどう思う――魔法師隊筆頭、グレン大隊長」


 どうかと問い掛けられたグレンは、顎髭を撫でながらニヤリと豪快に笑った。


「青い、ですな」

「青いか?」

「はい。まさか、今から戦う学生たちではなく、こちらに視線を向けるなど、青すぎます。目の前が全く見えていない」


 口では残念そうな言葉を並べているが、その表情がそうは語っていない。

 そのことにラヴァール王もランドルフも気づいていた。


「ですが――目指すべきものとして見られるのは、嬉しくもありますな」


 そう、アルは圧倒的強者の雰囲気を持つグレンを見て、この国の頂点であろうと結論付けていた。

 いつの日か、相まみえることができればいいとさえ思っていたが、そこまではグレンも気づいていなかったが。


「彼がパーティ部門、個人部門のどちらかで優勝することがあれば、話をする機会くらいはあるかもしれませんな」

「……グレン殿。もしかしたら、どちらでも優勝するかもしれませんよ?」

「確かに。何と言っても、Sランク相当のフェルモニアを単独討伐した実力者じゃからのう」

「個人の強さとパーティの強さは異なる。アル、と言ったか。他にも面白そうな奴はいたし、今年は少しばかり趣向も違っておるし……面白いことになりそうじゃのう」


 ラヴァール王やランドルフだけではなく、グレンまでが期待を寄せているとは、アルは知る由もなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る