第261話:まさかの騒動
その後、二人は人通りの多いところを避けながらも王都の様々な場所を見て回った。
屋台も多く出ており、貴族としては行儀が悪いものの購入してから壁際で立ち食いしたりもした。
その全てでリリーナはとても楽しそうであり、笑顔を絶やさないこともあり、アルも気分よく観光を楽しんでいる。
しかし、日も傾いてきた頃、中央に近い通り沿いが騒がしくなっていることに気がついた。
「……何事でしょうか?」
「ちょっと、見に行ってみるか」
人も多いので巻き込まれることはないだろうと思いながら近づいていくと、何やら言い争っている声が聞こえてくる。
本来ならばここで引き返すのが正解なのだろうが、一方の声に聞き覚えがあったことからそれもできなくなってしまう。
「貴様! 平民の分際で、ヴォックス様の道を遮るんじゃない!」
「そんなこと言われても、こうも混んでたら仕方ないんじゃないの?」
「それでも道を開けるのが普通なんですのよ! その制服、田舎のユージュラッド魔法学園ですね? 平民を代表にするなど、実力もたかが知れていますね!」
「はあ~? あんた、戦ってもいないのに何を言っているのよ!」
言い争っている声はヒートアップしており、このままでは喧嘩になりかねない。最悪の場合、人混みの中で魔法を放つのではないかとアルは心配になってきた。
「アル様、今の声はクルル様では?」
「だろうな。ちょっと行ってくる」
「あの、お気をつけて」
心配そうに見ているリリーナに笑みを返し、アルは人混みをすり抜けて野次馬の先頭までやってくる。
すると、そこではクルルに対して、他学園の制服を身に付けた学生三人が対立していた。
「クルル、何をしているんだ?」
「あっ! ちょっと、どこに行ってたのよ!」
「すまん、はぐれた」
「それは知ってるわよ!」
「おい! てめえ、俺たちを無視してんじゃねえよ!」
「そうですわ! 屈辱ですのよ!」
二人だけで話を進めていたところに、先ほどから声をあげている眼鏡を掛けた男子生徒と金髪の女子生徒が食って掛かってきた。
「あぁ、失礼しました。彼女には俺から言っておきますので、失礼します」
「ちょっと、アル!」
「……アル? お前、ノワール家のアル・ノワールか?」
アルが穏便に済ませようとした時、ずっと黙っていた金髪の男子生徒が口を開いた。
「……そうですが?」
「ふむ……なるほど」
そして、金髪の男子生徒は歩き出し、アルの目の前で立ち止まる。
「……えっと、あの?」
「ん? あぁ、失礼。俺はヴォックス・ラクスフォード。ラクスフォード家の長男だ」
「ラクスフォード家……王都の上級貴族の、次期当主様でしたか」
圧倒的上の立場にあるヴォックスの身分を知り、アルはクルルの手を取って道を開けようとした。
「ふん! つまらん相手のようだな」
しかし、次に発せられた言葉の意味が理解できずに動きを止めてしまう。
「……というのは?」
「ユージュラッドの近くで起きたスタンピードの大将首を討ったのがノワール家の三男だと聞いていたのだが、こうして間近に見てみて気づいたよ。貴様は、手柄を当主か長男のキリアン・ノワールから貰ったのだろう?」
「はあ! あんた、何を言って――んぐっ!?」
ヴォックスの言葉に声をあげたクルルだったが、それを止めたのは貶されたアル本人だった。
「いいえ、手柄を譲ってもらったということはありません」
「どうだかな。見たところ……レベルの高い属性を有してる強者の気配が見当たらないが?」
「……まあ、そうでしょうね。俺はレベル1しか持っていませんから」
「はあ~? レベル1だと~?」
「あはは! 聞いて呆れるわね! レベル1が、スタンピードの大将首を討伐できるわけがないでしょうに!」
「手柄を譲ってもらったと言っているようなものだな」
声をあげて笑っている三人の言葉は、野次馬にも聞こえていた。
この場にヴォックスがいるということもあるが、野次馬にはノワール家が虚偽の報告を王族にしたと広がってしまう。
「処分が下るのも、すぐだろうな」
「処分が下るも何も、虚偽の報告などしていませんから、下るはずもないでしょうね」
「……貴様、俺が嘘を言っているとでも?」
「事実を知らないのですから、仕方ないかと」
「無礼だぞ!」
「無礼はどっちの方よ!」
眼鏡の男子生徒とクルルが睨み合っている。
「……アル・ノワール。貴様はどちらの競技に出るのかな?」
「両方に出ます」
「そうか! 俺はパーティ部門にしか出ないが、こいつらは個人部門に出ることになっている。こいつらを倒すことができたら、半分は認めてやろう」
「半分だけですか。では、もう半分を認めてもらうにはどうしたら?」
溜息混じりにアルが問い掛けると、ヴォックスはニヤリと笑って答えた。
「当然、俺がいるカーザリア魔法学園に勝つことができれば、認めてやろう。まあ、無理だろうがな」
「僕たちも負けませんよ、ヴォックス様」
「当然ですわ」
「……それじゃあ、明日の開幕が楽しみですね」
アルがそう口にすると、癇に障ったのか二人が前に出てきた。
「僕はノートン・ザナック。ザナック家の長男だ」
「私はヘルミーナ・カーラオ・カーラオ家の次女よ」
「そうか。楽しみにしているよ」
「いくぞ、お前たち」
そして、ヴォックスはアルたちが開けた道を通ってその場を去っていった。
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