第257話:リーズレット商会王都支店

 王都に本店を置いている他の商家もあるだろう。

 だが、他の建物を見ても明らかにリーズレット商会王都支店の方が大きい気がする。


「……これ、本店じゃないのかい?」

「……大き過ぎないかしら?」

「……本店も、ここまで大きくはなかったはずだろう?」

「うーん……まあ、クルル様に話を聞けば早いと思いますよ!」


 唯一、リリーナだけは王都支店の大きさを気にしておらず、久しぶりにクルルに会えるとあって気分良く店内へ入っていく。


「お、俺たちも、行くか」


 固まっていた三人だったが、アルの声を受けてゆっくりと歩き出した。


 リーズレット商会王都支店の店内は、ユージュラッドにある本店よりも広く、品数も豊富だ。

 アルとシエラは王都が初めてであり、王都謹製の商品に目移りしてしまう。

 そんな中、奥の方からリリーナの声が聞こえてきたので足を進めると、そこではクルルが笑顔で出迎えてくれた。


「みんな、久しぶりね!」

「久しぶりだな、クルル」

「王都にいる間に、土砂崩れが起きたって情報も入ってたから、気になってたのよ」

「土砂崩れって……あぁ、確かにあったな」

「魔獣も弱くてつまらなかったわね」

「僕は楽だったから良かったけどね~」

「……私は土砂崩れの話をしてるんだけど?」


 土砂崩れから魔獣の話に移ってしまい、クルルは戦闘バカだと思いながら苦笑いする。


「ほほほ、やはり面白い方ですなあ」

「あっ! お久しぶりです、ラグロスさん!」

「ちょっと、アル! なんで私との再会よりも、お爺ちゃんとの再会の方が喜んでるのよ!」

「あー……すまん」

「そこは否定しなさいよ!」

「ほほほ! 本当に面白いなあ!」


 アルの声が聞こえたのだろう、カウンターの奥から続いて出てきたのは、ノースエルリンドまでの道中で知り合ったリーズレット商会の会長、ラグロス・リーズレットだった。


「いや、リーズレット商会の会長だし、挨拶をするのは普通じゃないか?」

「それでも不満なの! もう、お爺ちゃんも出てこないでよ!」

「すまんのう、クルル」

「……もう、アルはしばらくお爺ちゃんの相手でもしておいて。私はリリーナたちとどこに行くか決めておくから」

「それなら、王城の正門は見に行く予定だから」

「……はぁ。分かったわよ」


 溜息をつきながらクルルがリリーナたちに向き直る。

 だが、リリーナたちからは何故か非難の視線を向けられてしまった。


「……なんだか、すまんなぁ」

「いえ、クルルとは出先でも話ができますから。……まあ、後で埋め合わせはしますけど」

「自覚はあるんじゃな」

「それなりには」


 顔を見合わせたアルとラグロスは、しばらくして苦笑する。

 そして、クルルたちが観光ルートを相談している中、アルもラグロスに聞いてみることにした。


「ラグロスさんの観光おすすめの場所とかはありますか?」

「ふむ……儂のおすすめは、ここじゃな」

「……へっ?」

「リーズレット商会王都支店じゃよ。本店ではなく、こうして大きく目立つようにしているのじゃから、珍しいではないか?」


 冗談交じりの口調に、アルは笑みを浮かべて頷いた。


「そういえば、どうしてリーズレット商会は本店を王都に持ってこないんですか? これだけ立派な建物があれば、本店だと言ってもいいんじゃないですか?」

「儂の出身がユージュラッドだから……では、答えにはならんか?」

「それが答えなら、問題ないと思います」

「ほほほ、アル様は面白い考え方をしますな」

「そうですか?」

「商人や、どうしても理由を知りたいと思う者は、さらに探りを入れてくるものじゃ」

「でも、それが答えなら、探りを入れても意味が無いですよね。それに、ラグロスさんが嘘をついているようには見えませんし」


 アルの返答には、ラグロスの人柄にわずかな時間ながら触れたからこその答えだった。

 誠実であり、信じた相手をとことん信じ、助けてくれるような人物。

 商人なので損得で動くことの方が多いだろうが、それでもラグロスは信じるに足る人物だと、アルは考えていた。


「ありがとう。儂は、全ての仕事を次の人物に託すことができれば、ユージュラッドで余生をゆっくり過ごすつもりなんだ。だからこそ、ユージュラッドをより発展させたいと思っている」

「本店がユージュラッドにあれば、王都から足を運ぶ者もいると?」

「その数はとても少ないだろう。じゃが、一人や二人だとしても、そこから広がるものがあれば、本店を移すつもりは全く無い」

「……俺は、それでいいと思います。というか、ラグロスさんの考え方が、とても好きです」


 アル・ノワールの故郷はユージュラッドだが、アルベルト・マリノワーナの故郷は何処にもない。

 故郷を想う気持ちは、とても尊いものだとアルは知っていた。


「アルー! 決まったから出発するわよー!」

「どうやら、クルルからお呼びが掛かったようだな」

「また、お話を聞かせてください」

「魔法競技会が行われている間は王都にいるから、また来なさい」


 会釈をしたアルは、軽く謝りながらクルルたちと合流すると、リーズレット商会王都支店を後にした。

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