第256話:合流
アイテムボックスに荷物を全て入れているアルは特にやることがなく、ベッドに横になって魔法競技会のことを考える。
今年のユージュラッド魔法学園は、生徒同士で競わせて実力の高い者が代表となっている。
一年次でFクラスの生徒が代表になるなど、来年からはあり得ないことかもしれない。
だが、他の学園がどのように代表選考を行っているのかが分からない以上、試合は気を引き締めなければならないだろう。
「同じ選考方法を取っているところがあれば、確実に実力者が出てくるはずだからな」
貴族派の二人も弱いわけではない。
ただ、リリーナたちと比べるとどうしても実力は劣ってしまう。
パーティ部門は心配していないが、個人部門で優勝を手にするには、シエラやジャミール以上の相手を倒さなければならないと考えるべきだろう。
「一回戦から同学園で当たることはないらしいし、いきなり強敵と戦うことも想定しておくか」
そんなことを考えていると――
――コンコン。
ドアがノックされたので、アルはベッドから出るとドアを開けた。
「どうしたんだ、リリーナ? それに、シエラにジャミール先輩も?」
「さっそく、クルル様と合流して、王都観光に行こうと思っているんですが、アル様もどうかと思いまして」
「休む、なんて言わないわよね?」
「僕を誘ってくれたんだから、一緒に行くよねー?」
「……そこまで言われたら、行かないなんて言えないだろう」
苦笑を浮かべたアルは、部屋を出てそのまま一階に下りる。
カウンターにはアミルダとロザンヌがおり、何やら話をしていた。
「おや? アルたちは早速観光に向かうのかしら?」
「はい。ロザンヌさん、観光するのにおすすめの場所とかありますか?」
現地のことは現地の人に聞くべきだと、アルはロザンヌに話し掛けた。
ロザンヌは少しだけ考えた後、ニコリと笑って教えてくれた。
「だったら、王城の正門は見てきた方がいいね!」
「正門、ですか?」
「あはは! まあ、最初はみんなそんな顔をするんだけど、あの正門は絶対に見ておいた方がいいよ!」
「……分かりました。そちらにも行ってみます」
「いってらっしゃいな!」
「四人とも、気をつけてね!」
ロザンヌとアミルダに見送られながら、アルたちは宿を後にした。
まずはクルルと合流することを優先させようとなり、リリーナが先頭を歩いている。
リリーナは王都で合流するために、待ち合わせ場所を決めていたのだ。
「クルルが遅れていたらどうするんだ?」
「大丈夫です。待ち合わせ場所は、リーズレット商会の王都支部なので、いなければ分かるようになっているんですよ」
「なら安心ね」
「しかし、王都支部かー。本店を王都に持ってきたらいいのにねー」
疑問を口にしたのはジャミールだ。
商業だけではなく、王都は全ての中心を担っている。
王都にも支部を出し、それが成功しているのであれば、本店を王都に移す方が王都に暮らす民からの信用は得られるだろう。
「その辺りはしっかりと考えているんじゃないかな」
「アル様はクルル様のおじい様とお知り合いでしたね」
「あぁ。ノースエルリンドに向かった時に、たまたまな。今は会長らしいけど、あの人がいて何も考えていないとは思えないよ」
「ふーん。まあ、その辺の話はクルルちゃんにでも聞いてみようかな」
「あら? ジャミール先輩は商売に興味があるのかしら?」
今度はシエラがジャミールに質問を口にする。
シエラとジャミールだが、アルの指導と称して模擬戦を幾度も行ってきている。
そのせいもあってか、一年次と三年次ではあっても気安い言葉でやり取りをしていた。
「ナトラン家は商売を生業にして成功を収めた下級貴族だからねー。まあ、アミルダさんの功績に引っ張られて、無理やり貴族家になったようなもんだけどさー」
「そうなんですか?」
「うん。だから、僕としては家を継ぐ気は全くないんだよねー」
「継ぐ気はないって、もしかして、長男ですか?」
「そうだよ。まあ、僕よりも弟の方が優秀だし、親父もそっちを次の当主にするつもりだし、僕としては気にしてないけどねー」
「ジャミール先輩も、冒険者を目指しているみたいよ?」
そう補足を足してきたのも、シエラだった。
「それじゃあ、冒険者登録をするんですか?」
「うーん、そんな話もあったけど、僕は今年で卒業できるだろうし、その後からでもいいかなって思ってるよ。アル君から貰った報酬もあるしねー」
「私は……どうしようかしら」
シエラは一年次であり、卒業するには最短でも後二年は学園に通う必要がある。場合によってはそれ以上。
「まあ、急がなくてもいいんじゃないか?」
「……そうね。ゆっくり考えることにするわ」
「皆様! リーズレット商会に到着しましたよ!」
前を歩いていたリリーナから声が掛けられ、三人は視線を前方に向ける。
そこには、他の建物よりも一際大きなリーズレット商会王都支店が建っていた。
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