第253話:まさかの謁見
魔法競技会の受付に足を運んだアルたちを待っていたのは、ユージュラッド魔法学園の学園長である、アミルダだった。
「久しぶりだね、アル。それにみんなも」
「スプラウスト先生が怒っていましたよ?」
「これも仕事の内なんだから、怒らなくてもいいんだけな。……というか、そのペリナはどうしたんだ?」
アルたちが歩いて来たことにも疑問を感じていたアミルダだったが、引率であるペリナがいないことも不思議に思っていた。
「この馬車の数でしょう? ……先に歩いて来ました」
「あー、なるほどな。私だけではなく、お前たちもペリナの怒りの原因だということか」
「俺たちはたまたまですよ。主な原因はヴォレスト先生と他の教師の方々でしょうに」
責任を押し付けるなと暗に伝えたアルだったが、アミルダは笑いながら頷いている。
「まあ、ペリナなら問題ないわよ。仕事はできる子だからね。それじゃあ、こっちに来てちょうだい」
「えっ? こっちの列じゃないんですか?」
アミルダが案内してきた方向は、会場の中に向かう場所である。
いまだにたくさんの人が列をなしている場所とは異なり、アルたちは首を傾げていた。
「ユージュラッド魔法学園の面々は、スタンピードの件で話を聞くことになっていてね。時間が掛からないようにって、別で受付を用意してもらっているのよ」
「そうなんですか。……あれ?」
納得しそうになったアルだが、ここで一つの疑問が浮かんできた。
「それなら、馬車だって別で通ることもできたんじゃないですか? スプラウスト先生に伝えた方がいいんじゃないですかね?」
「……まあ、面倒だからいいんじゃないの?」
「あの、場所が分かれば私が伝えに行きますけど?」
ペリナが不憫に思えたのか、リリーナが小さく手を上げて進言したのだが。
「いいわよ。リリーナにも話を聞きたいし、他の子も一緒よ」
「……分かりました」
「リリーナ。後で、このことを告げ口してやろう」
アルの言葉を冗談だと思ったのか、リリーナは笑みを浮かべて軽く頷いた。
「そうですね。ありがとうございます」
「……本気なんだけどなぁ」
歩き出したリリーナの背中を見つめながら、アルはそんな呟きを溢すのだった。
※※※※
アミルダの案内で通された場所は、会場内にある一室である。
伝えられていた通り、部屋の入口の前には魔法競技会の運営委員が待っており、参加者の学生証を確認すると、そのまま部屋に通された。
「お久しぶりでございます――王よ」
そして、アミルダの言葉に全員が緊張を強いられることとなり、即座に膝を付いて頭を下げる。
「本当に、久しぶりじゃのう。ユージュラッド魔法学園では、面白いことをしているようじゃないか」
「さあ、なんのことでしょうか?」
「儂が知らないとでも思っているのか? まあ、結果が出ているのだから良いがな」
相手が王様であることは確かなのだろうが、対してアミルダが全く臆することなく話をしていることにアルたちは驚いている。
「さて、彼らが今回の魔法競技会の代表生徒たちか」
「はい。先に二名は話を聞いてもらいましたが、彼らよりも実力も上ですし、スタンピードの際にも活躍してくれた面々です」
「そして、一番前にいるのが、ノワール家の三男ということか」
「はっ! 私がノワール家の三男、アル・ノワールと申します!」
王様の疑問に対して、アルは即座に返答してみせる。
その反応の良さに少しばかり驚きの表情をしていた王様だったが、すぐに笑みを浮かべて口を開く。
「やはりか。皆、顔を上げて立つが良い」
「王様もそう仰せだ、立ってくれて構わないよ」
アミルダの言葉もあり、アルが最初に立ち上がると、ジャミールが続いて、残りの面々はゆっくりと、顔を見合わせながら立ち上がる。
「ほう! お主もおったのか、ジャミールよ」
「……お久しぶりでございます、ラヴァール・カーザリア王よ」
「そんなに硬くなることはない。他の面々もそうじゃぞ」
「そうは言ってもなかなかできないだろう? 言っておくが、王様は器も大きいから、本当に気を楽にしてくれて構わないわよ」
「アミルダはもう少し敬ってくれて構わないんじゃがな?」
「それを嫌がったのは王様ですよ」
ラヴァールを相手にウインクをしているアミルダ。
その様子にジャミールは溜息をつき、アルは本当にいいのだと気持ちを切り替えていた。
「それで、スタンピードについての話を聞かせてもらっていいかな? 特にアル・ノワールの話はとても興味深いからのう」
「……ヴォレスト先生?」
「いや、私は何も言っていないわよ?」
「ほほほ。話を持ってきたのは第一王子のランドルフじゃよ」
「……そうでしたか」
スタンピード騒動の後、ユージュラッドの現状を把握するために派遣されたランドルフは、わざわざノワール家に足を運び、直接話を聞きに来ていた。
そのことでキリアンが口を滑らせて色々と問題が起きたものの、アルとしては悪い印象は受けていなかった。
「実力もランドルフに勝利したお主の兄、キリアン・ノワールよりも上だと聞いたぞ?」
「……それは、殿下の勘違いでございます」
「そうか? ……まあ、今年の魔法競技会が始まれば、勘違いかどうかはすぐに分かるか」
「……はぁ」
そして、アルたちはスタンピードでそれぞれが感じたことを話し始め、アルはフェルモニアとの戦いについてを口にする。
ラヴァールは気になったところで質問を挟みつつ、アルの話を楽しそうに聞いていたのだった。
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