第254話:面倒を押し付けられたあの人
ラヴァールとの謁見が終わり、部屋の外に出たアルたちは、大きく息を吐き出していた。
「はああぁぁぁぁ。……ヴォレスト先生、そういうことなら先に言ってくださいよ!」
「あははっ! いやいや、ごめんねー!」
「俺にもですけど、みんなにもですよ!」
「そうね! みんなもごめんなさいね!」
「「「「「……は、はぁ」」」」」
力の抜けた声に、アミルダだけが大笑いだ。
しかし、アルは一国の王様がこのような場所に、それも護衛を伴うことなく現れたことに驚きを隠せないでいた。
「ランディ様もそうですけど、ラヴァール王も気さくと言いますか、なんと言いますか」
「行動派の王様だからね。まあ、私のやっていることに気づいていることには驚いたけど」
アミルダは魔法至上主義を覆し、実戦ですぐに使える魔法師の育成に力を注ごうとしている。
実力主義であり、魔法にだけこだわるようなこともせず、貴族主義など以ての外だと考えている。
魔法国家と称されているカーザリアでは忌避されそうなものだが、ラヴァールをそれを知ってなお、アミルダを止めることはしなかった。
「もしかして、王様の考え方を知っていたから、ユージュラッドで行動を起こしたんですか?」
「それもあるけど、結果を出してから報告しようと思っていたのよ。魔法競技会が一つの結果になると思っていたんだけど……まさか、知られていたとは」
「……スタンピードの大将首をアルが倒した。それは結果ではないのかしら?」
口を挟んだのはシエラである。
確かに、フットザール家などの上級貴族をものともしなかった魔獣を、アルは単身で討伐している。
それも魔法だけではなく、剣術も駆使しての討伐だ。
これも一つの結果、大きな結果になるのではないかとシエラは主張した。
「もちろん、大きな結果にはなるんだけどね。シエラやジャミールからすると納得いかないかもしれないけど、それだとアルだけが規格外という形にしか見られないのよ」
「僕はそれで構わないですよ? 実際、アル君は規格外だしねー」
「私も構わない」
「二人とも、厄介払いのつもりか?」
「「事実だよ」」
肩を竦めながら口にしたアルだったが、声を揃えて反論されてしまっては、これ以上は何も言えなくなってしまう。
「実際は、シエラとジャミールも現役の冒険者以上に活躍していたし、リリーナやフレイア、ラーミアだって活躍はしていた。でも、アルのやったことは、それらの印象を薄くしてしまうほどに印象的なものだったのよ」
「……俺のせいってことですか?」
「違うわよ! ただ、個人の成果ではなく、複数人の成果が必要だってこと」
「だからこその魔法競技会ってことですか」
アミルダも貴族派の二人には全く期待をしていない。むしろ、一回戦で負けてしまうのではないかと危惧している。
この際、個人部門は捨てても構わないからパーティ部門で優勝を手にできれば、アル以外の面々も印象に残るだろうと考えていた。
「というわけだ、アル。個人部門は最悪捨てても構わないから、パーティ部門に全力を注いでちょうだいね」
「……俺は、個人部門も手を抜くつもりはありませんよ?」
「だと思うけど、怪我だけは止めてよね。パーティ部門に貴族派の誰かが入るなんて……うぅぅ! 考えたくもないわ」
体を抱きしめて震えるジェスチャーを見せながら、アミルダは歩いていく。
ちょうどその時、前方から見慣れた人物が姿を現したかと思えば、大股で近づいてきた。
「アミルダ先輩!!」
「あら、ペリナじゃない。ここでは学園長と呼んでと何度も――」
「専用の窓口があるって、なんで教えてくれなかったんですか!!」
「……あら?」
ペリナは馬車の長い列に並び、ようやく受付まで辿り着き教員証を提示すると、ユージュラッド魔法学園は別の窓口があると苦笑気味に言われていた。
そのことに怒り狂い、鬼の形相のままアミルダを捜し歩いていたのだ。
「あははー、ごめんねー?」
「みんなも! どうして教えてくれなかったのよ!」
「ヴォレスト先生が面倒だからいいのだと、言っていましたよ?」
「ちょっと、アル!?」
「……せーんーぱーい?」
ペリナの迫力にアミルダが後退る。
しかし、アミルダが一歩後退るのに対して、ペリナは二歩も三歩も近づいていく。
「みんな、ちょーっとだけ、私に付き合ってもらってもいいかなー?」
「「「「「「もちろんです!」」」」」」
「みんな、私の敵なの!?」
「ちょっとこいやこらああああっ!!」
そして、一教師のペリナが、学園長であるアミルダに文句を言い続けるという、珍しい場面に遭遇することができたアルたちなのだった。
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