第252話:王都到着

 その後は順調に道程を消化し、アルたちは無事に王都カーザリアへ到着した。

 辺境にあるとはいえ、ユージュラッドも大きな都市だったのだが、それでもカーザリアと比べると小さい都市だったのだと思わずにはいられない。

 それほどにカーザリアが広大であり、賑やかであり、建物も大きく、人の往来が激しい都市だった。


「普段も人は多いけど、今は魔法競技会があるからさらに多くなっているわね」

「馬車専用の道が無かったら、進めないところでしたね」


 ペリナの言葉にアルは相づちを打っているが、馬車が並んでいる様子を見ると呆れ顔だ。


「馬車が並ぶなんて、見たことがないわ」

「魔法競技会というのは、とても人気があるイベントなのですね」

「開催中は朝から酒場が開いたりするからね」

「噂によると、暗黙の了解で賭け事も行われるみたいだね」

「賭けの対象になるのかー。……なんか、楽しそうかも!」


 シエラとリリーナが驚きの声を漏らし、フレイアが補足をし、ジャミールとラーミアは学生とは思えない情報を口にする。


「言っておくけど、開催中は夜の外出は禁止だからね!」

「まあ、その方がいいでしょうね」


 ラーミアの言葉を受けてか、ペリナが注意を促し、アルもそれに同意している。

 ただし、出番のない日中は観光に出てもいいとのことなので、酒場でなければ出入りもいいだろうと許しが出た。


「やったね! それじゃあ、ガルボやフォルトと合流してどっかに行こうよ、フレイア!」

「クルル様も応援に来てくれると言っていましたし、私たちも合流しましょう」


 ラーミアとリリーナが嬉しそうに口にすると、アルはジャミールに声を掛けた。


「ジャミール先輩はどうしますか? その、三年次の生徒はいませんよね?」


 貴族派を除いた代表では、アルとリリーナとシエラが一年次、フレイアとラーミアが四年次で、ジャミールだけが三年次だ。

 指導を通じて仲良くなったとはいえ、一年次と四年次で別れて行動するとなれば、ジャミールだけが一人になってしまう。


「うーん……どうしようかな?」

「よかったら、俺たちと一緒に行動しませんか?」

「いいのかい? せっかくだし、一年次のみんなで観光した方が楽しいだろう?」

「いえ! ジャミール様も、ぜひ一緒に行きましょう!」


 遠慮しようとしていたジャミールを誘ったのはアルだけではなく、リリーナも同様だった。


「一緒の時間を過ごしたのですから、一年次だけでなんて言わないでください」

「ジャミール先輩。後輩の女の子にここまで言わせたんですから、一緒に行きますよね?」

「これは、断れないねー」


 あはは、と笑いながらジャミールは一年次の面々と行動することを決めた。

 馬車は現在、魔法競技会の会場があるカーザリアの中央へと進んでいる。

 馬車の行列は、魔法競技会に参加する生徒を乗せた馬車がほとんどだ。


「スプラウスト先生。中に入るには、先生と一緒じゃないとダメとかあるんですか?」

「いいえ。学園側から代表の名簿はすでに提出されているから、学生証を提示したら入れるわよ」

「……これ、俺たちだけでも歩いて行った方が早いですよね?」

「止めてよ! 私を一人にしないでよね!」

「えっと、そういう理由ですか?」

「だって、その通りなんだもの!」


 学園長や他の教師に引率を押し付けられ、ここまで来てさらに生徒にまで見捨てられたくはないとペリナは必至に口を動かす。


「それじゃあ、多数決を取りまーす!」

「ちょっと、ラーミアさん!?」

「歩いて会場入りした方がいい人、手を上げてくださーい!」


 ラーミアが笑顔で音頭を取ると、ペリナ以外の全員が手を上げた。


「……み、みんな、嘘よね? 私を、見捨てないわよね?」

「すみません、ペリナ先生!」

「これが現実よね」

「馬車のこと、よろしくお願いしますね、先生」

「僕も今回ばかりは、みんなに従おうかなー」

「多数決、万歳!」


 リリーナが、シエラが、ジャミールが、フレイアが、ラーミアが、次々に馬車を降りていく。


「……ア、アル君?」

「……この埋め合わせは、必ずします!」

「そんな! アル君、アルくーん!!」


 最後にアルが馬車を降りると、その背中にペリナの悲痛な声が聞こえてきたのだった。

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