第247話:レオンへの報告

 嵐のようなランドルフがいなくなったところで、アルとキリアン、そしてチグサですら大きく溜息をついていた。


「……すまないね、アル」

「……いえ。というか、キリアン兄上はもう少し言葉を選んでください。俺のことを良く言ってくれることは嬉しいのですが、あの言い方では模擬戦を挑めと言っているようなものですから」

「……本当に、すまない」


 自分でもやってしまったという自覚があり、頬を掻いた後に深く頭を下げていた。


「まあ、言ってしまったことは仕方ないですけど……ランディ様の件は、護衛騎士のお二方にお任せしましょう」

「うーん、リックとスタンリーでは御しきれないと思うんだよなぁ」

「であれば、兄上が手助けをしてあげてください」

「えっ! ぼ、僕がかい!?」

「身から出た錆ではないですか」


 ニコリと笑みを浮かべながらそう口にしたアルに、キリアンは何も言えなくなってしまった。


「……分かった。僕もなんとか言い含めてみるよ」

「よろしくお願いします。俺も、殿下と模擬戦なんて目立つ真似はしたくありませんから」

「……もう、十分目立っているんじゃないのか?」

「そうですか?」

「……自覚なしか」

「キリアンお坊ちゃま、アルお坊ちゃま。レオン様がお呼びのようです」


 ハッシュバーグ家の馬車が門から出て行ったのを確認したのか、チグサから声が掛かった。

 御者を務めていたセドルが闇属性でランドルフとやり取りしていた方法はレオンには使えないが、また別の方法でレオンとチグサはやり取りをしているのだろう。

 そんなことを考えながら、アルはキリアンと共にレオンの部屋へと戻った。


 レオンからはランドルフとのやり取りについて説明を求められた。

 その中でキリアンが行った失態については頭を抱えていたが、最終的には笑って許していた。


「アルならば、上手く手加減もできるだろう」

「あの、それでは模擬戦をする流れになっていませんか、父上?」

「模擬戦になってしまった場合の話だよ。そうならないのが一番だがな」

「ランディのことだ。アルの実力を知ってしまうと、第一魔法師隊に入るよう迫ってくるだろうからね」

「えっ! ……それは困りますね」


 前世で国家騎士団長を務めていたアルは、そのせいで剣の道を究めることを諦め、さらに政権争いに巻き込まれて殺されてしまっている。

 普通なら第一魔法師隊に配属されることは名誉なことだろう。しかし、アルとしては有難迷惑な話だった。


「そういうと思ったよ」

「まあ、私もできることはやるつもりだ。それに、アルはもう冒険者なのだからな」


 レオンの言葉に、アルは首から下げていたギルドカードを取り出した。

 Fランクであるアルのギルドカードは銅板で作られている。

 Fという大きな文字の横には、その者の情報を保存している特殊な魔法陣が刻まれており、そこにこなした依頼の情報も含まれている。

 FランクとEランクまでは同じ銅板なのだが、それ以上になるとギルドカードを作る素材も変わっていく。


「自由に生きることができる冒険者。お前は、何者にも縛られる必要はない」

「……ありがとうございます、父上」

「ただし! 学園はしっかりと卒業してもらうからな。そこだけは譲らんぞ?」

「はい。冒険者になる唯一の条件でしたからね」


 アルは冒険者になっている。

 しかし、レオンから唯一の条件として、というものがあった。

 アルとしても学業を疎かにするつもりはなく、半年という猶予があれば学園に通いながら冒険者として依頼をこなすことも可能だと思ったからこそ、冒険者になったのだ。


「それとな、アル。ジラージから頼まれていたことは終わったのか?」

「あぁ、報酬の件ですね。もちろん、みんなに行き渡りましたよ」


 ジラージからの頼まれごとというのは、冒険者や貴族ではない者たちへ報酬を手渡すことだった。

 冒険者ギルドというのは、あくまでも冒険者へ依頼を斡旋し、その報酬を渡す組織である。

 当然ではあるのだが、だからこそ冒険者ではない人物に報酬を渡すことは、過度な勧誘と見られてしまい禁止されている行為だ。


「でも、俺からみんなに手渡すのは良かったんですか?」

「冒険者ギルドから直接手渡さなければ問題はないらしい」

「……まあ、抜け道というのはどこにでもあるものですね。ですが、貴族の方々には必要なかったと聞いていますが、よかったんですか?」


 ジラージからの頼まれごとには貴族の子弟は含まれていなかった。

 だが、貴族の場合は国からある程度の報酬が褒美として各家に送られるので問題はない。


「だから、リリーナもフレイアさんやフォルトさんも、何も言ってこなかったんですね」


 そのことを耳にすると、アルはホッと胸を撫で下ろした。


「報告は以上か?」


 レオンの言葉にアルとキリアンは同時に頷いた。

 そのまま部屋を出て行こうとしたのだが、アルだけが最後に呼び止められた。


「アル」

「はい」

「魔法競技会、頑張れよ。私も時間を見つけて、応援に行くからな」

「……はい! ありがとうございます!」


 レオンからの激励の言葉に、アルは少しばかり興奮しながら今度こそ部屋を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る