第248話:部屋の中で
自室に戻ったアルは、ベッドの端に腰掛けて魔法競技会について考えていた。
何をするのか知らなかったアルは、以前にペリナから話を聞いている。
魔法競技会には個人部門とパーティ部門の二つの部門があり、個人部門に三名、パーティ部門に六名が参加できる。
代表枠は八名なので、一人は両方の部門に参加することになる。
例年であれば最上級生だったり、全員が認めた実力者が両方の部門に参加するのだが、今回は揉めることになるだろう。
「優勝した俺が参加するのが普通なんだろうけど、貴族派が許さないだろうなぁ」
そう口にしたアルだが、実際はそこまで悲観していない。
何故なら、スタンピードの時に亡くなったフットザール家とは別に、多くの貴族家が取り潰しになっている。
その中には代表が内定していた生徒もおり、仮代表から代表内定を手にした者が数名出てきた。
その中にはアルの指導を受けていたラーミアもおり、人数だけで見ればアルたちの方が多く、アルが両方の部門に出ることになるだろうと考えていた。
「そうなると、リリーナたちとはパーティ部門で一緒になる方がいいかな」
貴族派とパーティを組んで戦える気が全くしないアルは、個人部門の二枠に貴族派を当てて、パーティ部門にリリーナたちを当てたいと考えている。
人数も十分で、アルとリリーナの他には四年次のフレイアにラーミア、三年次のジャミール、一年次でAクラスのシエラ。
この中には優勝のアルに準優勝のシエラ、ベスト4のフレイアとジャミールがいる。いわば、ユージュラッド魔法学園の最強パーティと言えるかもしれない。
個人部門に出たいという者もいると思っていたのだが、何故か全員がパーティ部門で構わないと口にしていた。
「まさか、その理由が俺に勝てる気がしないってのは納得できなかったがなぁ」
アルの指導を受けながら模擬戦を何度も行っているリリーナたち。
シエラやジャミールは一対一で模擬戦を行っており、それ以外の面々は一緒に指導を受けているガルボやフォルトも交えて一対複数での模擬戦である。
だが、全員がアルに一勝すらできずに今日まで過ごしている。
ここまでくると、アルの強さは異常であり、個人部門に参加する気が失せてしまうのも分かる気がする。……当の本人は全く納得していないが。
それでも、これで丸く収まるのであれば問題はないかと気持ちを切り替えていた。
「……ヴァリアンテ様は、今の俺のことをどう思っているのだろうか」
ベッドから立ち上がったアルは、机の上に置いていたヴァリアンテの神像を手に取りそう呟く。
ヴァリアンテの声が聞こえたのは、ガルボパーティを助けにユージュラッド魔法学園のダンジョンに潜った時だったが、それ以降は一度も声を聞いていない。
剣術を極めるために転生させてもらったが、魔法が発展したこの世界において、スタンピードの大将首だったフェルモニアを剣術だけで倒し切ることができなかった。
「……俺は、あなたを満足させることができているのだろうか」
剣術の神として神像に力を宿しているヴァリアンテを想い、アルは毎日のように祈りを捧げている。
実際は自分のミスをフォローするために大女神フローリアンテの指示で仕方なく地上界に下りてきたのだが、そんなことをアルが知る由もない。
アルにとっては自分を助けてくれた敬愛すべき神様であり、また声を聞きたいと思う相手でもあった。
「……俺はまだまだ精進していきたいと思います。今回の魔法競技会は剣術とは関係ありませんが、剣術のためになると考え、優勝を目指していきたいと思います」
本日の祈りを捧げ終わったアルは、優しく机の上に神像を戻すと、今度はベッドに横になる。
「今日は、何だか大変だったなぁ」
大変だった原因は、もちろんランドルフだ。
カーザリア国の第一王子であるランドルフは、アルに大きな興味を抱いている。
これは友人のキリアンの弟というだけの理由ではない。
「冒険者として自由を手にできないと、剣術を極めることはできないだろうからな」
前世では国家騎士団長となり、任務をこなすだけの人生を送り、全く関係のない政権争いに巻き込まれて毒殺されてしまった。
ヴァリアンテからやり直すための機会を与えられた今世では、剣術のためにだけ生きたいと考えている。
「……魔法競技会では、頑張らない方がいいのか?」
先ほどヴァリアンテに捧げた祈りを覆すべきか本気で考え始めたアルだったが、慣れない王族との会話があったからか、疲れのせいで気づけば睡魔に負けてまぶたを閉じていた。
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