第240話:冒険者に、なる?

 ジラージとしては冒険者ギルドから大手を振って報酬を支払えないというジレンマがあり、レオンとしては言葉通り学友との思いで作りを優先して欲しいという思いだ。

 アルとしては、ジラージが言う通りに将来的には冒険者になる予定なのだから、それが早くなるのであればそれに越したことはないと思っている。


「あの、冒険者になると何か不便があるんですか?」


 ジラージに質問をしたつもりだったのだが、答えてくれたのはレオンだった。


「冒険者ギルドは適性ありと認めた者にしかギルドカードを発行していない。これは、身分証としても機能するギルドカードを簡単に発行させないためでもある」

「とはいえ、それでも身分証としか利用しない輩は出てきちまう。そこで、FランクとEランクでは一ヶ月以内に依頼達成が確認できなければ、ギルドカードの効力を即時停止。Dランクからは三ヶ月以内が期限になってくる」

「学園にも通いながら、ランクが上がるまでは月一で依頼を達成するなど、無理に決まっている。急ぐことでもないのだから、今は学生のままでいいんだよ」


 それぞれの意見を聞いて、アルは思案する。

 学園で学べることも多く、特にアミルダとペリナからは闇属性を習うチャンスだと思っているアルにとっては、学園生活を蔑ろにする理由がない。

 また、リリーナやクルル、エルクたちとのやり取りにも楽しみを感じており、アル・ノワールとして生きていくには大事な人間関係だと考えてもいる。


 しかし、冒険者になることに利点がないわけではない。

 今はまだ利点は少ないかもしれないが、長い目で見れば冒険者との繋がりを早い段階から作り、そして学園に通いながらも時間を見つけて依頼をこなすことができる。

 そうなれば、卒業後に冒険者になるよりも早い段階でランクを上げることができると踏んでいた。


「ギルドカードの効力が停止するというのは、具体的にどういったことができなくなるんですか?」


 考える時間を作るため、アルは疑問に思ったことをそのまま口にする。


「当然ながら、身分証としては機能しない。これは、各都市の冒険者ギルドに情報が伝達されるから、その人物が現れた時点でギルドカードは没収される。それと、ギルドで得られる情報だったり、購入できる道具の販売、魔獣素材の買取りなんかもできなくなるぞ」

「それじゃあ、ギルドカードを没収された人は、再び冒険者登録をすることはできるんですか?」


 このまま冒険者になったとして、レオンの懸念通りに依頼を達成できない可能性も否定できない。

 再度冒険者になることが可能であればすぐにでもなりたいが、それが不可能であったり、重いペナルティが課されるのであれば安全策を取りたいと考えた。


「いいや、できないな」

「……そうなんですか?」

「あぁ。以前は、冒険者になるための金額を倍にしたり、一定期間は再登録ができないって感じにしてたんだが、それでも期限を守らない奴が後を絶たなかったからな。それならいっそのこと、再登録ができないって決めたんだ」


 そうなると、アルの答えは決まってしまう。

 一度でも期限を守れなければ冒険者になれないとなれば、その可能性が高い選択肢を選ぶはずがないのだ。


「まあ、そこは安心してくれ」

「……ジラージ、何をするつもりだ?」


 腰に手を当てて胸を張るジラージに、レオンはジト目を向けながら口を開く。


「俺はユージュラッドのギルマスだぜ? 特例として、アルに関しては半年の猶予を与えられる。これは冒険者ギルドの規約にもある、れっきとしたルールなんだぜ?」

「だが、それは複数の高ランク冒険者の推薦と、ギルドマスターの推薦が必要なのだろう?」

「……おい、レオン。お前、マジで言ってるのか?」


 呆れたように口にするジラージに、アルは首を傾げる。


「フェルモニアを単独で討伐したってだけでも実績十分なのに、こいつはその前に他の冒険者を助けて回ってたんだぞ? ガバランは当然として、他の冒険者からも推薦は貰えるだろう。実際に、アルだけじゃなくて他にも何人かを冒険者にしてくれって声もあがってるんだぞ?」


 アルだけではなく、他にも買ってくれている人物がいることにアルは嬉しく思った。

 そして、その中に冒険者を目指しているシエラが入っていることを願ってしまう。


「……はぁ。アルはどうしたいんだ?」


 嘆息しながらレオンへ向き直りながら口を開く。

 質問の形を取っているが、その瞳は答えは決まっているのだろう、と問い掛けているようにも見えた。


「……その条件が適用されるなら、俺は冒険者になりたいと思います」

「そう言うだろうと思ったよ」

「よし来た! それじゃあ、早速手続きといこうか!」

「ならば、冒険者ギルドからアルへしっかりと報酬を支払ってもらうぞ?」

「当然だ! そのつもりで冒険者になってもらいたかったってのもあるからな! それと、一つ頼まれてほしいんだが、いいか?」

「なんですか?」


 ジラージの頼み事は、アルにとってもありがたい提案だったので二つ返事で承諾した。

 これで、みんなもタダ働きにならずに済むと思えば容易いものだ。


 ――そして、アルはこの日、念願の冒険者になったのだった。

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