閑話:アミルダ・ヴォレスト

 スタンピードが起きてから三日が経過していた。

 魔法学園は臨時休校となっており、アミルダだけではなく、多くの教師が駆り出されて現場の調査を行っている。

 その中でアミルダが単独で調査を行っていること、それは──スタンピードを促進させた原因だった。


 スタンピードが起こることは仕方がない。

 全ての魔獣を討伐することなど不可能で、隠れていたり、人間の手が届かない場所に巣くっている場合などもあるからだ。

 だが、その予兆を見つけ出し、ある程度の予測を立てることは可能だ。

 アミルダもスタンピードの予兆を見つけ出したからこそ、今回の作戦を思いつき、そして実行に移したのだから。


 しかし、それらは全て、アミルダの予測を上回る速度で進行してきたのだ。

 アミルダの見立てではあと二週間程度は猶予があると見ていた。

 だが、蓋を開けてみると進軍速度を上げ、急遽対応する羽目になってしまった。

 今になって考えてみると、単身でフェルモニアを討伐できたアルがいなかったらと思うだけで体が身震いしてしまう。


「……私の予測が外れたことなんてなかった。どうして今回は早まったのかしら?」


 考えられる可能性として、アミルダは三つの予測を立てた。


 一つ目が、単純にアミルダの予測が外れた可能性。

 人間誰しも失敗がないわけではない。どれだけ慎重に事を運んだとしても、失敗する時はしてしまうものだ。

 だが、スタンピードという国が率先して鎮圧に当たる災害を前に、アミルダは何重にも確認を行っていた。

 二週間という長期間ものズレは、さすがに信じられないものがある。


 二つ目が、フェルモニアが進化した可能性。

 道中で多くの魔獣を喰らい、異常な進化、あり得ない個体として産まれ落ちたフェルモニアが、さらに特殊個体として進化したことで速度が増した。

 だが、使い魔を通して確認したフェルモニアは通常の個体であり、特殊個体として進化した感じは見受けられなかったことから、二つ目に関しても可能性は低くなる。


 そして三つ目が、外的要因による可能性。

 しかし、その外的要因が何なのか見当がつかず、三日間もの間ずっと頭を悩ましていた。


「きっと何かあるはずよ。フェルモニアが速度を上げた理由が、きっとどこかに!」


 使い魔を山の中だけではなく、ユージュラッドの周囲にも飛ばして調査をしているが、それらしきものは今もなお見つけられていない。

 冒険者ギルドからもこれといった情報は上がってきていないので、正直なところ八方塞がりになっていた。


「……やっぱり、私のミスなのかしら? それ以外に、考えられないわよねぇ」


 たらればだが、アミルダが使い魔を最初からユージュラッドの外ではなく、中にも放っていたなら、何かしらの痕跡を見つけることができたかもしれない。

 フェルモニアが一直線にユージュラッドを目指した原因が、ノワール家にあったからだ。


 しかし、現在は神力など一切放たれておらず、原因を究明することは不可能となっている。

 それは何故か──フローリアンテによる怒りの声が、無事にヴァリアンテへ届いたからだ。

 慌てて起きたヴァリアンテは自らの神力を抑えることに成功し、今では単なる木の像に成り下がっている。

 この状態では、いかに優秀な魔法師が見たところで、原因だと分かる者はいないだろう。


「……はぁ。なんだか、自信を失くしちゃうわね」


 アミルダはそんなことを呟きながら、三日間で何度目になるか分からない溜息を吐き出すのだった。

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