第239話:スタンピードのその後

 ――その後、スタンピードは徐々に収束の兆しを見せていった。

 フェルモニアが倒されたことで魔獣が集まるということも無くなり、すでに集まっていた魔獣は人間の匂いを嗅いで殺到するものの、その統率力も欠いている。

 ただ闇雲に襲い掛かってくる魔獣を相手にするのは、魔法師にとっても、冒険者にとっても、難しいことではなかった。

 ジラージが口にした通り、特に活躍を見せたのは魔法装具を受け取ったリリーナとクルル、そしてフォルトの三人。

 そして、自らの魔法装具を遺憾なく使ったフレイアだった。


 レオンが抜けた穴に入ったペリナだったが、広域魔法を抜けて迫ってきた魔獣には苦戦を強いられていた。

 そこに駆け付けたのがリリーナとクルルである。

 魔法操作に長けたリリーナが的確に魔法を命中させ、クルルが高火力の魔法で迫った魔獣を殲滅していく。

 倒しきれなくても、近くにいた冒険者が止めを刺してくれることで、自然と連携が生まれていた。

 ジラージが抜けた中央ではフォルトとフレイアが魔法を行使し、さらに魔法装具を受け取ったガバランも加わり魔法による一掃が行われていた。

 事実、アミルダは戦況を見極めて魔獣の誘導に全神経を注いでいたのだから、三人の活躍を目を見張るものがあっただろう。


 そして、目立たないところでいえばシエラとジャミールの二人である。

 左側に陣取っていた二人は冒険者に交ざって魔獣を殲滅しており、その動きは現役の冒険者に勝るとも劣らないものだった。

 事実、大型の魔獣を二人で何匹も倒している姿が目撃されている。

 しかし、二人は学生であり、冒険者ギルドに登録をしていないことから、倒した魔獣の報酬は左側に陣取った冒険者で分けても構わないという話になった。

 故に、二人の活躍は大きく取り上げられることはなかったが、のちに二人が冒険者となった時には先輩冒険者から助けられることになるのは、まだ先の話である。


 ここまでは生き残った者たちの活躍についてだったが、被害が無かったわけではない。

 当然ながら、フェルモニアを討伐しに向かったフットザール家が率いた集団は一人の女の子――ブリジットを残して全滅している。

 そのことでブリジットが心に傷を負うのではないかと心配したアルとラミアンだったが、ブリジットは忌み子だと物心ついた頃から家に閉じ込められ、その存在をひた隠しにされてきた。

 さらに、ジルストスや他の家族からもストレスのはけ口として暴行を受けていたこともあり、家族が死んでしまったからと心を病むことはなく、むしろ殺されると思っていたことから胸を撫で下ろしていた。


「母上、ブリジットはこれからどうするのですか? フットザール家の生き残りとして、彼女が当主になる何てこともないのでしょう?」

「フットザール家は当主含めて、ブリジットちゃん以外は死亡しているから、事実上の取り潰しでしょう。まあ、うちで面倒を見るのが妥当でしょうね」

「……助けておいてなんですが、いいんですか?」

「もちろんよ。アルの苦労を水の泡にするつもりはありませんし、聞けばアンナと同い年みたいなの。仲良し姉妹なんて、きっと楽しいでしょうね」


 ということで、ブリジットはノワール家の養子として一緒に暮らすことになった。

 ブリジットもそのことを喜び、アンナもブリジットを支えるとやる気を見せていた。


 被害はフットザール家が率いた集団だけではなく、冒険者の中にも出ている。

 しかし、こちらは死亡者は一人もおらず、負傷のみで収まっており、さらにポーションや光属性の回復魔法でスタンピードから数日では全快していたので、実際には被害はなかったと言えるかもしれない。


 結果、一番の被害はユージュラッド貴族家にあり、今後のことについては話し合いが必要だろうということになった。

 下級貴族が中級貴族に、そして中級貴族が上級貴族に格上げされ、また貴族家の中から分家を作り新たな貴族家を作り出してユージュラッドを支えることもあるだろうというのがラミアンの言葉だ。

 そして、これがレオンとアミルダが狙っていた作戦でもあった。

 ユージュラッドを上から支配しようと目論んでいた害悪な貴族家を一気に排除し、これからの発展に協力的な貴族を格上げし、取り立てていく。

 どうして二人がここまでするのかをアルは聞かされていないが、アミルダはともかく、レオンがやることに間違いはないだろうと全幅の信頼を注いでいた。


 そして、現在のアルはというと――


「だからなあっ! こいつは特例で冒険者にしてやるって言ってるんだよ!」

「おい、ジラージ。そんな勝手は許さんぞ。アルには学業に専念してもらう必要がある」

「卒業したら冒険者になるんだろう? だったら別にいいんじゃねえか? アルもそう思うだろう?」

「ダメだ! 学友との思いで作りも大事なのだから、そこは譲れん!」

「……えっと、父上もルシアンさんも、落ち着いてください」


 ノワール家を訪れていたジラージが、アルを冒険者にするべきだとレオンと口論している場に居合わせていた。

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