第228話:スタンピード⑧
一方で右側のラミアンとキリアン。
こちらは中級貴族が多く、二人の指示に従う者があまりにも少ない。
むしろ、手柄を取られて成るものかと無意味な指示をしてくる始末。
ならばと二人は誰の指図も受けることなく、自由に動くこととした。
「全く。ユージュラッドの危機だというのに、自分たちのことしか考えていないんだから」
「非常に残念ではありますが、それが今のユージュラッド貴族なんでしょうね」
面倒ではあるが、そのせいもあり魔獣の打ち漏らしも多くなっている。
さらに、ピンポイントで魔獣を攻撃できるほどの腕を持っていないので、山道にしか目がいっておらず冒険者の疲労が心配されてしまう。
「仕方ないわね。キリアン、少しだけあなたに任せるけどいいかしら?」
「お任せください」
柔和な笑みを浮かべたキリアンが前を向いて魔法を発動させた。
光属性レベル4のスターレインが放たれると、冒険者に殺到していた魔獣を貫き絶命させていく。
空から降り注ぐ光の筋を見て多くの冒険者が驚いたものの、それ以上に歓喜して声をあげた。
「うふふ、素晴らしい高揚ね。これなら、効果も抜群でしょう。奮い立ちなさい――ヒールサークル」
光属性レベル5の支援魔法のヒールサークル。
冒険者と魔獣が入り乱れる戦場の上空に巨大な魔法陣が顕現し、そこから降り注ぐ光を浴びた冒険者の怪我が癒えていく。
「な、なんだこりゃ?」
「だが、怪我が癒えてくれるのは助かる!」
「それに……力が、漲ってくるわ!」
そう、冒険者の体感は間違っていない。
ヒールサークルの効果は傷を自動的に癒してくれるだけ――なのだが、ラミアンの魔法には一工夫されている。
「全く。ヒールサークルにスピリットハイを織り込むなんて、普通はできませんよ?」
「うふふ。私だって頑張らないとね」
戦意を高揚させて動きを良くさせる光属性レベル3の魔法、スピリットハイ。
レベル3と聞くとそこまで凄くないと思う者も中にはいるが、効果のほどは魔法師によって異なってくる。
ラミアンほどの使い手が発動するスピリットハイの効果を考えると、スタンピードという危機を前にしてはレベル5に相当する力を発揮するだろう。
「いくぞてめぇらあっ! 中央はここよりももっと激しい戦闘をしてるんだ、俺たちが折れるわけにはいかねえぞおっ!」
「「「「「おおおおおおおおぉぉっ!!」」」」」
前線を押し上げ始めた冒険者たちを見て、ラミアンは軽く息をつく。
その背中に手を回したキリアンに、ラミアンは笑みを浮かべた。
「……大丈夫よ、キリアン」
「いいえ。体調だって良くなったばかりでしょう。後は僕に任せて、母上は魔法の維持にだけ集中していてください」
「ありがとう。それじゃあ、そうさせてもらうわね」
ラミアンが一歩後ろに下がり、逆にキリアンは一歩前に出る。
まとまりに欠ける魔法師を気にすることなく、再び魔法を顕現させた。
「王都で鍛えられた僕の魔法を、見せつけておこうか!」
ラミアンのお淑やかな面を濃く受け継いでいるキリアンだが、その血にはレオンの豪快な一面も受け継いでいる。
左側では、キリアンの一人舞台が幕を開けたのだった。
※※※※
「まだまだ来るぞ! 気を引き締めて――ぬおわあっ!?」
「な、なんだ、今のは!?」
「きゃあっ! ……あ、あれ? 魔獣が、死んでる?」
右側では冒険者たちの間で困惑が広がっていた。
大量に溢れ出した魔獣の群れを相手にしていたと思ったら、真横を風が通り過ぎ、気づいた時には魔獣の死骸が山を作っている、ということが相次いだのだ。
凄腕の冒険者がいたのかと考えたが、集まった中にそれほどの実力者はいなかったはず。
しかし、この場にはとある人物を知る冒険者が直剣を巧みに操り魔獣を斬り伏せていた。
「エルザさん!」
「ア、アル様!?」
複数の魔獣を相手にしていたエルザに声を掛けながら、アルはアルディソードを振り抜きつつ魔法を放つ。
一〇匹以上いただろう魔獣の全てが肉塊へと変わり、一瞬だが静けさが訪れた。
「俺は押されている場所に向かいます。ここは任せても?」
「はい! 大丈夫です!」
すぐに移動を再開させたアルを見送り、エルザは両頬を叩いて気合を入れた。
「負けられないわ! 冒険者の、先輩として!」
直剣を握り直し、近くの冒険者に声を掛けながら迫る魔獣へと相対する。
死ぬわけにはいかない。生きてスタンピードを乗り切り、胸を張ってアルの前に立つのだと心の中で誓ったエルザだった。
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