第224話:スタンピード④

 ベルは取り出した五つの魔法装具をテーブルに並べると、ガバランに質問する。


「ガバっちの心の属性は何かな?」

「えっと、土属性です」

「それなら……うん、これがいいわねー」


 五つの中から一つの魔法装具をベルが直接ガバランに手渡す。


「こいつの名前はヴァースディ。土属性の魔法を大きく向上させるわ」

「そういえば、ガバランさんの土属性のレベルはいくつなんですか?」

「土属性はレベル3だ」


 ガバランは土属性以外にも火と水の属性でレベル1を持っている。

 レベル差があるため、普段は土属性をメインに戦っていた。


「レベル3もあれば問題ないわね。使う人にもよるけど、ヴァースディに慣れればレベル5の魔法も使えるはずよ」

「レ、レベル5、ですか……」


 ベルの前では、ガバランも圧倒され過ぎて面白いくらいに表情を変えてしまう。

 アルは苦笑を浮かべながらも、ガバランの実力を知っているのでとても心強いと感じていた。


「残りの魔法装具の属性は何があるんですか?」

「火、水、木、光の属性よー」

「それなら、光はラミアンに渡してもいいかな?」


 レオンの言葉にベルは頷き、そのままラミアンに一本の魔法装具を手渡した。


「こっちはセイントリーズ。だけど、ラミアンが魔法装具を使うと考えたら、怖くなっちゃうなー」

「うふふ、楽しみだわ」


 光属性レベル5のラミアンが魔法装具を使うとなれば、どれだけ威力が底上げされるか分からない。

 さらに光属性はラミアンの心の属性でもある。

 ベルは震える仕草を見せながら冗談っぽく口にした。


「残りは火、水、木の三つですか」


 ガバランは頭の中で魔法を得意とする冒険者を思い出そうとしていたが、しばらくして嘆息しながら首を横に振った。


「ダメだ。冒険者の中には、魔法装具を上手く使えそうな奴がいない」


 そもそも、カーザリアにおいて冒険者を目指す者の大半が魔法が不出来とされた者である。

 ガバランのように魔法ができて、なおかつ冒険者を目指す者の方が少ないのだ。


「うーん、もったいないけど、使いこなせない人に渡したくはないからなー」


 ベルも同様に嘆息してしまったが、魔法装具なら魔法を学ぶ者に使わせたらいいのだとアルは考えた。


「魔法学園の生徒に使わせたらどうですか?」

「あら、誰か心当たりがあるの、アルっち?」

「えぇ。残った三属性を心の属性に持つ、俺の友人たちです」


 ニヤリと笑ったアルを見て、レオンとラミアンは合点が言ったようだ。

 アルの友人をこの目で見ており、さらに最近はガルボからも学園の話を聞くことが多くなっていた。


「リリーナ・エルドア、フレイア・ミリオン、フォルト・ハッシュバーグの三名です」


 木属性のリリーナ、火属性のフレイア、水属性のフォルト。

 アルは、この三名なら魔法装具の力を遺憾なく発揮できると考えた。


「うわー、面白いくらいに貴族家ばっかりだねー」

「すみません。ですが、スタンピードを前にしては建前も何もありませんから」

「そうなんだけどねー。僕が貴族にだけ贔屓しているって見られたくないんだよなー」


 ここに一人でも平民が入っていれば話は違ったかもしれない。

 アルの言っていることも間違いではないのだが、スタンピードを乗り切った先にある生活のことを考えると、ベルの意見も尊重したいところだ。


「──そういうことなら、フレイアを外せばいい」


 入り口の方から声が聞こえて振り返ると、そこには話し合いを終えたガルボが立っていた。

 キリアンとアンナも一緒のようで、応接室に全員が集合している。


「どういうことですか、ガルボ兄上」

「フレイアは自分の魔法装具を持っているからな」

「そうなんですか? でも、トーナメント戦では使っていなかったような……」

「あいつの魔法装具は細かな魔力操作が難しいからな。だが、スタンピードに対してなら思う存分使えるから問題ないはずだ」


 ガルボが言うなら間違いないと、アルはもう一人の名前を口にした。


「それでは、クルル・リーズレットならどうでしょうか?」

「リーズレットってことは、リーズレット商会の娘さん?」

「はい。商家ではありますが、貴族ではないので問題ないと思います」

「その子なら、私の魔法装具を使えそうかしら?」

「間違いなく。彼女の成長も、俺の目から見れば素晴らしいものがありますから」


 考えることなく、アルは即答でそう口にする。

 実際、フレイアの名前を出した時もクルルと迷っていた。

 経験の差を考慮してフレイアの名前を出したのだが、魔法装具を持っているとなれば、間違いなくクルルならやってくれると信じている。


「アルっちがそう言うなら、間違いないか。分かった、それじゃあこれらはアルっちに預けておいていいかな?」

「フォルトさんにはガルボ兄上が渡してくれますか? 残りは俺がリリーナとクルルに渡します」

「分かった。預かっておこう」


 魔法装具の有無は魔法師にとって大きな違いを生み出すことになる。

 クルルとフォルトはレベル3以上を持つ魔法師であり、リリーナはレベル2までしか持っていないが魔力操作に長けており、それでも強力な魔法を使いこなすことができる。


「さて、それでは私は冒険者ギルドのギルドマスターと話し合いをしてくるか。ガバラン君、案内をお願いしてもいいかな?」

「う、承りました!」


 ガバランの顔を立てるためだろう、レオンは案内を頼むと屋敷を後にする。

 すると、ベルも用事は済んだと口にしてお店へと戻っていった。


「アル。リリーナちゃんとクルルちゃんがどこにいるか分かるかしら?」

「リーズレット商会で必要な物を集めると言っていたので、そちらかと」

「行ってきなさい」

「……いいのですか?」

「えぇ。魔法装具は魔力を増幅させることができますが、初めて扱う場合には戸惑ってしまうものです。時間はありませんが、なるべく触れておいて損はないはずよ」


 アルは魔力操作に長けていたこともあり最初からすぐに扱うことができたが、普通はできないものだとラミアンは説明した。


「分かりました。すぐに行ってきます」

「気をつけるのよ」


 そして、アルは屋敷を飛び出すと真っ直ぐにリーズレット商会へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る