第220話:ユージュラッド会議②

 アミルダが事前に話をしていたのはレオンだけで、ロズワルドは今回の会議で初めてアミルダの提案を聞いている。

 レオン以外の貴族はほとんどが反対するだろうと予想していたアミルダにとって、ロズワルドの発言はありがたい予定外だった。


「ロズワルド様、本当によろしいのですか?」

「もちろんだ。私はユージュラッドを離れるつもりはないが、それでも地位と名誉は欲しいからな」

「同感ですな」


 念のためにアミルダが確認を取ると、当然と言わんばかりにロズワルドが頷き、それにレオンが同意を示す。

 その姿を見たジルストス以外の貴族たちは再び動揺し始めた。


「ふ、ふざけるな! こんな茶番、会議の意味がないだろう!」

「茶番ですと? ジルストス様、それは些か失言ではないですか? スタンピードというユージュラッド存亡の危機についての話し合いですよ?」


 ここにきてアミルダは強い口調でジルストスを言い含める。

 ユージュラッド存亡の危機に間違いはなく、他の貴族からも同意を得られないと気づいたジルストスは口を閉ざしてなおもレオンを睨みつけているが、当の本人は堪えていないらしく当たり前のように口を開いた。


「では、今回はノワール家とエルドア家で大将首を取らせていただきます。他の方々はユージュラッドに迫る魔獣を押さえ込んでいただくよう、よろしくお願い──」

「その役目はフットザール家が務めさせていただく!」


 レオンが話を終わらせようとした時、突如として意見を覆してきたジルストスが立ち上がる。


「……ジルストス様、さすがに横暴では? 先ほどまで反対意見を口にしていたではないか」

「黙れ下級貴族が! 貴様らでは力不足、無駄な死体を積み上げるだけだ! 大将首を討ち取る役目なら、上級貴族であるフットザール家がふさわしいに決まっているだろう!」


 得意気になっているジルストスを見て、レオンはチラリとアミルダを見やる。

 どうやらアミルダも同じことを考えていたようで自然と二人の目が合った。


「……では、多数決を取らせてもらいます。大将首討伐の役目をノワール家とエルドア家に任せるべきか、フットザール家に任せるべきか、です」


 多数決、と銘打っているものの、その答えは明らかだった。

 貴族はより上の貴族に媚を売り、靡くものである。

 故に、ノワール家とエルドア家には誰の手も挙がらず、全員がフットザール家を選んだのだ。


「……如何なさいますか? レオン様、ロズワルド様」

「……会議での決定だ。異論を挟む余地はないだろう」

「同じくです」

「ふん! 当然の結果だ。貴様らは、外壁の内側からフットザール家の力を目の当たりにすれば良いのだ!」


 その後の会議は滞りなく進み、最後にはアミルダとレオン、そしてロズワルドが会議室に残っていた。


「あれで良かったのですかな、ヴォレスト殿」

「はい。援護、感謝いたします、ロズワルド様」

「しかし、驚いたな。まさか、ロズワルドが地位と名誉を欲しがるなんてな」

「いやいや、レオンとヴォレスト殿が何やら企んでいると踏んだまでだよ」


 レオンとロズワルドは同じ下級貴族というだけでなく、個人としても仲が良い二人である。

 普段のレオンを知っているロズワルドからすると、ユージュラッドの危機に際して無駄話をするような人間ではないことを理解していることから、何か裏があるだろうと踏んで援護に出たのだ。


「しかし、スタンピードとはね。本当にフットザール家が大将首を取ることができると思っているのかい?」

「一応、実力で上級貴族まで上り詰めた一族だからな。今のフットザール家にそれだけの力があるのかは分からんが、可能性はゼロではないだろう」

「レオン、随分と厳しい意見なのね」


 大将首を討ち取ることはスタンピードの鎮圧において最重要となる部分だ。

 魔獣たちは大将首を追い掛けて行軍しており、そいつを倒さない限りは周囲の魔獣を集め続けてしまう。

 そのため、アミルダとペリナが魔力の全てを注いで露払いをすると言っていたのだ。


「アミルダ、本当に全魔力を注ぐつもりなのか?」

「まっさかー。露払いはするつもりだけど、全魔力を注ぐつもりはないわよ」

「そうなのかい? それでは後から問題になるのではないか?」

「きっとそうはならないわよ。……まあ、別の問題がどでかくやってくると思うけどね」


 突然、遠い目をしてそう口にしたアミルダを見てロズワルドは首を傾げる。


「……アミルダ。ロズワルドは信用に足る男だ。お前の本当の計画を話してもいいんじゃないか?」

「本当の、計画?」

「……そうね。味方は一人でも多い方がいいもの。でもね、ロズワルド様。この話を聞くと、後戻りはできなくなるけど本当にいいのかしら?」


 先ほどまではどこか柔らかな雰囲気を含んでいたアミルダだが、突如として殺気にも似た迫力を纏わせてロズワルドに問い掛けてきた。


「……ここまで話を聞いて、なかったことにはできないですね。それに、ユージュラッドには私の守るべき家族もいますから、レオンとアミルダ殿を信じようと思います」

「そう言ってくれると思っていたよ、ロズワルド」

「それはどうも、レオン」


 お互いに笑みを浮かべている二人を見て、アミルダは苦笑しながら本当の計画を口にする。

 その話を聞いたロズワルドは顔を引きつらせていたが、思うところがあったのか致し方ないとだけ口にして協力を約束したのだった。

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