第217話:魔力感知
だが、満足しているのは二人だけであり、リリーナたちは呆れ顔を浮かべていた。
「いきなり模擬戦を始めないでください!」
「危ないじゃないのよ!」
「「ご、ごめんなさい」」
アルだけではなく、先輩のジャミールまで頭を下げたものだから、これ以上強くは言えずにこの話は終わりになる。
代わりに魔力を感じ取る方法についての講義へと移っていった。
以前に食堂でその話をしていたリリーナはすぐに取り掛かり、ついでだからとクルルも参加している。
フレイアとラーミアには同じ説明を行うのだが、ここでもついでだからとガルボとフォルトまで耳を傾けていた。
「……あの、ガルボ兄上たちの授業は?」
「ん? あぁ、そこは問題ないぞ」
「僕たちはすでに卒業できることが確定しているから、自由な時間が結構あるんだよ」
特殊個体が大量発生したダンジョンから無事に帰還した、それ自体が評価へとつながり卒業に足ると判断されたらしい。
「まあ、アルとペリナ先生がいなければ危なかったが、実力が上がったのは確かだな」
「僕もそうだよ。でもまあ、評価してくれたのならそれに越したことはないからね」
二人とも図太いなと思いつつ説明を終わらせると、そのまま自主練習へと移っていった。
その様子を見ながら次のことを考えていると、服の裾を引っ張られたのでそちらに目を向ける。
「どうしたんだ、シエラ?」
「私とも模擬戦をしてほしい」
「……これでも結構疲れているんだが?」
「先輩だけズルい。私もアルと模擬戦をしたい。それも、本気の模擬戦を」
頭を掻きながらアルはジャミールに視線を向ける。
模擬戦の相手をジャミールに任せようかと思ったのだが、彼は肩を竦めてその場で座り込んでしまう。やる気がないという合図でもあった。
「……分かったよ。でも、手加減はできないからな?」
「そっちの方がありがたいわ」
リリーナたちの様子を見ておきたかったのだが、このままではシエラが引き下がらないと悟ったアルは模擬戦を引き受けた。
満足そうなシエラだが、アルはなるべく早く決着をつけるために言葉通り手加減なく、本気で模擬戦に挑んだ。そして──
「きゃあっ!」
模擬戦は三分と掛からず終了し、シエラの表情からは驚愕が伝わってくる。
ジャミールとの模擬戦に一〇分以上の時間を要していたことを考えると、自分がどれだけ未熟であるかを思い知らされる結果になったのだ。
「……はぁ。接近戦を仕掛けても、この有り様とはね」
「いや、良い太刀筋だったよ。戦い方は誰から習っているんだ?」
「全て独学よ。教えてくれる人なんて、誰もいないもの」
その言葉にアルはふと考え込んでしまう。
シエラの使う武器はナイフである。さらに両手に持つ二刀流だ。
アルが知る限り、ナイフを扱う戦い方で指導もできる人物に一人だけ心当たりがあるのだが、彼女は家庭教師でも冒険者でもないので一存で指導をお願いすることはできない。
「そうか……なら、シエラには模擬戦をするよりも基本的なナイフでの戦い方を教える必要がありそうだな」
「アルは剣を使うんでしょ?」
「ナイフも使うぞ?」
一応、声を掛けるつもりではあるが、それまでは自分が教えるべきだろうとアルは考えた。
そして、実際にナイフも使うのだと示すために懐から斬鉄を取り出す。
「……驚いた。魔法学園にナイフを持ち込んでいる人がいるなんてね」
「それはこっちのセリフだ」
「お互い様じゃないのかい?」
「「あなたに言われたくない!」」
「……こりゃ失敬」
審判を務めていたジャミールが声を掛けると二人同時に反論されてしまい、再度肩を竦めることになってしまった。
「とはいえ、今日は本当に疲れたから模擬戦は終わりだ。やるなら二人でやってくれ」
「ジャミールさん、一本よろしくお願いします」
「えっと、僕も疲れているんだけど?」
「お願いします!」
「……ア、アルくーん?」
「俺はリリーナたちを見ているので、よろしくお願いしますね」
「え、えぇ〜?」
シエラの相手をジャミールに任せたアルは、魔力感知の自主練習を行なっているリリーナたちのところへ移動する。
そこでは黙々と魔力を感じ取ろうと体内の魔力に意識を集中させる者や、話し合いを重ねてより良い方法がないかを考える者、何故か両手をバタバタさせている者など、様々な方法で練習を行なっている姿があった。
「……ラーミア先輩は何をしているんですか?」
その中で一番気になってしまったラーミアに声を掛けると、頬を掻きながら答えてくれた。
「い、いやー、空気中の魔力を感じ取ろうとしたんだけどできなくってさー、ヤケになって魔力を追い払ってたのよー」
「……いや、追い払えませんからね? 空気と一緒で、そこら中に漂っているんですから」
嘆息しつつラーミアから離れると、今度はフレイア、そしてガルボとフォルトの話し合いの場に移動する。
「どうですか?」
「あぁ、アルか。さっきの話から、空気中の魔力を感じ取るのは難しいだろうってことで、それなら相手の魔力を感じ取ろうって話になったところだ」
「良いアイデアですね。自分の魔力よりは感じ難いですが、空気中の魔力よりかは断然感じやすいですから」
「これから魔法を使いながら検証するところよ」
「これができたら僕も少しは強くなれるかもしれないね」
代表ではないガルボとフォルトだが、魔力操作を高めることは卒業後も生きていく上で大事な要素になってくる。
フレイアとの話し合いをしている表情を見ると、やる気を出していることが一目瞭然なのでアルとしては嬉しい限りだった。
最後に向かった先は、黙々と体内の魔力を感じ取ろうとしているリリーナとクルルの場所なのだが、そこではアルも予想していなかったことが起きていた。
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