第215話:アルの指導

 アルと指導を受ける学生たちは第五魔道場に集まっていた。

 アミルダから指示を受けての指導なので第一魔道場が使えると思っていたのだが、どうやら貴族派の代表三人が使用するからと突っぱねられてしまった。

 ここで抗議の一つでもすればよかったのだが、アルは大きな施設は必要ないとあっさり諦めてしまったのだ。


「アル様、本当によかったのですか?」

「学園長のお墨付きなんだから、強く言えたんじゃないの?」


 そう口にしているのはリリーナとクルルだ。

 二人はトーナメント戦で優勝と準優勝、さらにベスト4に残った面々がいるこちらよりも、ベスト8しかおらず、さらに人数でも少ないあちらが第一魔道場を使用することに納得いっていなかった。


「俺がみんなに教えるのは、アンナに教えた魔力を感じ取る方法だからな。広すぎると逆に教え難いから好都合だ。それに、第五魔道場は見慣れた光景だからやりやすいんだよ」


 スタンピードが来ることは確実なわけだから、自分たち以外の学生が実力をつけることも必要だとアルは考えている。

 お互いにやりやすい環境に身を置くことができるのであれば、第一魔道場の使用問題など些細なことだった。


「魔力を感じ取るって、私はできるけど?」


 アルの言葉にいち早く反応したのはシエラだった。

 決勝戦では黒煙が視界を遮る中でも的確に魔法を放ってみせたことからそのことはアルも理解している。

 故に、シエラには別メニューを組んでいた。


「魔力を感じ取る訓練をするのはリリーナ、フレイアさん、それと……」

「はいはーい! よろしくね、アル君!」

「おい、どうしてラーミアがここにいるんだ?」


 ガルボがジト目を向けながら口にする。


「えへへー! だって、みんなが面白そうなことをしているなと思って後を付けてみたら、なんとアル君が指導するって言うじゃないのよ! それなら参加するしかないって思ってね!」

「お前は代表ではないだろうが!」

「でもでもー、学園長から予備要員として仮代表に任命されたから、指導を受けるのも問題ないのよ!」

「……そうだったんですか?」


 アルは驚きの声を落としていた。

 リリーナとの試合を見ていて、正直なところラーミアが代表になれなかったのはもったいないと思っていただけに、アルとしては嬉しい誤算ではある。

 特に土属性は相手の足を止めるにはもってこいの属性なのでラーミアが加わってくれるならスタンピード対策にも大いに役立つのだ。


「そう言うことなら問題ありません。でも、予備要員は四名選ばれるんですよね?」

「あぁー、他の仮代表は貴族派だったから第一魔道場に行っちゃったわ」

「そうですか。まあ、お互いに不干渉で実力を高められるなら、それに越したことはありませんね」


 いないならそれでも構わないという風に肩を竦めると、組み分けを発表した。

 魔法を感じ取る訓練は先ほど口にしたリリーナ、フレイア、ラーミアの三人。

 そしてシエラとジャミールが別メニューとなる。


「シエラちゃんは分かるけど、僕もそっちなのかい?」

「ジャミール先輩には、まず俺と本気の模擬戦をしてもらいます。本当の実力が分からなければ、指導方針も立てられませんから」

「えぇー、僕もみんなと一緒でいいのにー」

「ヴォレスト先生から聞いてますよ? あの話、ジャミール先輩も聞いているんですよね?」


 あの話というのはスタンピードについてだ。

 第五魔道場に集まっている面々でいうとラーミアだけがこの事実を知らないので首を傾げているが、知っているならなおさらジャミールには実力をさらけ出して欲しいとアルは思っている。


「買いかぶり過ぎなんだけどなぁ」

「それでもいいですよ」

「……分かったよ。本気で模擬戦をしたらいいんだね?」

「お願いします。……俺も、本気を出しますから」


 そう言いながら、アルはアイテムボックスからアルディソードを取り出した。

 シエラとしては自分との試合ではオールブラックを使っていた事実もあり、鋭い視線をジャミールに向けている。


「……アル。先輩の方が私よりも強いと言っているのかしら?」

「その通りだよ、シエラ。ジャミール先輩は強い。もしかしたら、俺よりも強いかもしれない」

「あはは、それはないかなー」


 シエラに困ったような顔を向けつつ、ジャミールも自分のアイテムボックスから魔法装具を取り出したのだが、その形状に全員が驚愕してしまう。


「……やはり、あなたもでしたか」


 声を絞り出せたのはアルだけだった。

 それも当然だろう。何故なら、ジャミールの魔法装具はアルと同じで剣の形をしていたのだから。


「これが僕の魔法装具――グラムだよ」


 グラムを手にした途端、ジャミールの雰囲気が一変する。

 飄々とした優男はどこにもおらず、その迫力はオークロードと対峙した時に似たものを感じ取っていた。


「……これは、楽しめそうだな!」


 指導の順番が逆になってしまったことなど些細なことだと言わんばかりに笑みを浮かべたアルは、ジャミールと一緒に第五魔道場の中央へと移動していく。

 他の面々は自然と壁際に移動して模擬戦の結果を見守ることにした。


「……それじゃあ、始めようか」

「……よろしくお願いします」


 審判はいない。

 二人はお互いのタイミングで動き出し、模擬戦は開始された。

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