閑話:フローリアンテ・ワン・エレオノーラ②
地上世界を、そして数多ある世界を眺めながら、天界に住まう大女神──フローリアンテ・ワン・エレオノーラはお茶を楽しんでいた。
天界から決められた地上世界を見守る神や転生者を支援する神、そして自らが地上世界に赴いて転生者を支援する神もいる。
フローリアンテは、そんな神々の行いを監視する役割を持っていた。
「……ふう。今日も問題なく、全ての神々は地上世界を見守っているようですね」
神は基本的に地上世界のことに干渉することを許されておらず、見守ることだけを仕事として遂行する神が多い。
そんな中で転生者を支援する神というのは、転生者に不利な状況へ神が追いやってしまった場合に行う救済処置だ。
「支援を行っている神々も問題はないようですが……やはり、彼女ですか」
そして、現時点で唯一地上世界まで赴き転生者を支援している神が一柱だけ存在していた。
「駄女神──ヴァリアンテ・トゥエル・フリエーラ」
アルベルト・マリノワーナ──現在のアルを自らの欲望のままに魂を引き寄せただけではなく、転生先も本人が苦難を与えられるような異世界へと送ってしまった女神である。
地上世界に降りてからも何かと問題を起こしているヴァリアンテだが、一度だけアルのためにその力を使っている。
「……まさか、また問題が起きてしまうとはねぇ」
頭を抱えそうになりながらもフローリアンテは転生したアルベルトを天界から見つめる。
魔法国家カーザリアの辺境都市であるユージュラッドに魔獣のスタンピードが迫ろうとしていた。
これが自然の流れから発生したものであればフローリアンテもただ眺めるだけで済んだだろう。
しかし、地上に降りたヴァリアンテが関わっているとなれば話は変わってくる。
「なんであの子はこうも問題を起こしてくれるんでしょうね! 神力が含まれた神像で自分が作られていることを理解しなさいよね!」
ダンジョンで起こした問題では魔獣が忌避する神力のせいで下層の魔獣が特殊個体へと進化してしまった。
だが、今回は魔獣の数が圧倒的に多く、忌避する力を消滅させようと逃げるのではなく向かって来てしまったのだ。
神力は本人の意思で抑えることも可能なのだが、何故かそれをしていないヴァリアンテにフローリアンテは怒りを覚えていた。
「あの子……まさか、忘れているのかしら?」
まさか、と思いながらも視線をアルベルトからヴァリアンテへ向ける。
現在、ヴァリアンテはアルベルトの部屋の机に無造作に置かれている。
それでも毎夜、眠る前には神像に祈りを捧げているので信心深いところはフローリアンテも感心していた。
「……あ、あの子……あの野郎……また寝てやがるわねえ!!」
言葉が自然と悪くなっていることなど気にしていないかのように顔を真っ赤にしてヴァリアンテを睨みつける。
「マズい、本当にマズいわ! これは、ダンジョンの比ではない位にマズい!」
大量の魔獣が押し寄せるスタンピードでは、対抗するために多くの者が戦場に足を運ぶことになる。
それはイコールで多くの犠牲が出る可能性が高まるということだ。
幸いと言っていいのか、今回のスタンピードは元々起こるタイミングではあったので多少の犠牲は想定内である。
それでも一定数の犠牲を超えてしまうとヴァリアンテのせいだと判断されて処分が下ることも考えられ、それはヴァリアンテだけではなくまたしてもフローリアンテにも同様の処罰が下るだろう。
「は、早く起きなさい! おーい、ヴァリアンテー! おーい! ……こらあっ! 起きろ、ヴァリアンテ! 駄女神がーっ!」
フローリアンテの怒声が自室に響くものの、深い眠りについているのか全く反応を示さない。
天界からの声であっても大女神であるフローリアンテの声なら届くものだ。ダンジョン内でもその悲鳴がヴァリアンテに届いたことで目を覚ましてアルベルトの助けとなったのだ。
「早く起きんかーい! てめえ、自分の立場が分かってるのか、こらあっ!」
しばらくの間、フローリアンテの怒声が途絶えることはなかった。
そして、それでもヴァリアンテが目を覚ますことはなかったのだった。
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