第213話:賛成と反対と

 賛成はリリーナ、フレイア、シエラ、そして準決勝で棄権した学生の四人。


「私はいつもアル様に教えてもらってますから」

「私も賛成よ。私も弟君の戦いを見たことあるしね」

「私は負けているもの、反対する理由がないわ」

「僕もさんせーい。強い一人と一緒にいる方が何かと楽だしねー」


 最後の意見はどうかと思うが、まさか棄権した相手が賛成に回るとは思わずアルは驚いていた。


「ふざけるな! 下級生の、さらにFクラスに教えを乞うなど、あり得んぞ!」

「私も反対です!」

「俺たちは今まで通りにやらせてもらいます!」

「あぁ、それで構わないわ。魔法競技会まで、さらに実力を高めてちょうだいね」


 そう口にした三人の学生は第一魔道場を後にした。

 残された学生を見て、アミルダも意外な人物が残ったと声を掛ける。


「まさか、あなたが残るとは思わなかったわ」

「そうですか? 僕としては当然の選択のつもりですけどねー」

「あの、ヴォレスト先生はこちらの先輩と知り合いなんですか?」


 学園長であるアミルダと気安く会話をしているのも気になりアルは質問を口にする。


「あぁ、一年次の学生は知らないわよね。こいつの名前はジャミール・ナトラン。三年次Cクラスで私のはとこだ」

「よろしくねー」


 柔和な笑みを浮かべながら手を差し出してきたので何気なくその手を握り返したアルだったが、その瞬間に自分が大きな勘違いをしていたことに気がついた。


「──! ……実力を隠すのが、上手いんですね」

「えぇー? なんのことかなー? 僕はなんの特長も持たないCクラスだよー?」

「……そういうことにしておきます。俺だってFクラスですしね」


 お互いに笑みを浮かべながら手を離すと、アミルダが二人の肩に手を回して快活に笑った。


「どうやら仲良くできそうね!」

「僕は元からそのつもりですよ?」

「俺もそうです」


 こうして、アルを含めた代表五人は今後のことについて軽く打ち合わせを終わらせると、そのまま解散ということになった。


 ※※※※


 帰り道、アルは学園の門の前でシエラがこちらを見ていることに気がつき声を掛けた。


「なんだ、待っててくれたのか?」

「話の途中だったからね。……お友達はどうしたの?」


 今のアルは珍しく一人で帰宅の途についている。


「もしかしたらこうなるかもと思っていたからな。先に帰ってもらったよ。特にリリーナは疲れているだろうからな」

「あなたと試合をしたんだもの、疲れて当然よ」

「そう言うシエラもか?」

「当然じゃないの。もうクタクタよ」


 軽く肩を回すような仕草を見せたので、アルは苦笑を浮かべながら隣に立って歩き出した。


「それじゃあ早速話を戻そうか」

「あら、遠慮しなくてもいいのに」

「疲れていると言ったのはシエラだろう」

「そうだったわね」


 冗談っぽく会話を重ね、しばらくして本題へと入っていく。


「私があなたを見掛けたのは、三年前にユージュラッドの外で特訓をしている姿よ」


 やはりと、アルは三年前のことを思い返していた。

 普段は屋敷の中でしか行っていない模擬戦だが、唯一屋敷の外で行ったのが三年前のガルボが入学式を迎えたその時だけだ。


「周囲には誰もいなかったはずなんだがな」

「私は目が良いのよ。たまたま門の近くに生えていた背の高い木に上ってたんだけど、そこから見えちゃったのよね」


 まさかそんなことがあろうとは考えてもおらず、話を聞いても些か信じられない気持ちになっていた。


「あの距離から、目が良いだけで見えるものなのか?」

「そこは秘密よ。これでも魔法師ですから」


 種明かしをしないという意趣返しだろうか、それでも自分が言ったことで間違いだとは思わないのであえて追求することはしなかった。


「……あの時のあなたを見て、とても心が震えたわ。そして、あれだけの実力を持ったあなたなら魔法学園に入学すると思ったの」

「あの時は剣術の模擬戦だったのに、なんでそう思ったんだ?」

「相手も相当な実力者だったでしょう? きっとどこかの貴族が雇った冒険者だと思ったの。そして、貴族なら魔法学園に行かせるだろうとも思ったわ」


 その読みは的中し、さらに同い年だったことも相まって入学当初のシエラはとても喜んでいた。

 しかし、入学してクラスを見渡してもアルの姿はなく、まさかのFクラスという最低クラスにいるのだから驚き以上に落胆してしまったのだとか。


「……なあ、今の話を聞くと、俺はシエラの憧れだったのか?」

「そうよ」

「なら、なんであんな分かりやすい殺気を俺にぶつけてきたんだ? 憧れならもっと違う接し方があったろうに」


 そう、アルが一番気になっていたのは殺気をぶつけられたからである。

 もちろんシエラの実力にも興味はあったが、それは殺気をぶつけられたからシエラという人物を認識したわけであり、そうでなければトーナメント戦が始まる前から意識できなかっただろう。

 しかし、アルの疑問に対する答えは至極単純なものだった。


「だって、その方が私のことに気づいてくれるでしょう?」

「……えっ、たったそれだけ理由か?」

「他に何があるのかしら。私のことなんて、今日まで知らなかったでしょう?」

「……まあ、そうだな」

「なら、そういうことなのよ。あっ、私はこっちだから、それじゃあまた明日ね」

「……あ、あぁ、また明日」


 挨拶もそこそこにさっさと帰ってしまったシエラの背中を、アルはしばらくその場から動くことができずにただ眺めていたのだった。

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